鼎談書評 文藝春秋 掲載記事

洋行した日本人が傷付いた「肌の色」と「身長」の壁

『「肌色」の憂鬱 近代日本の人種体験』 (眞嶋亜有 著)

中央公論新社 2300円+税

山内 この本は、日本人の「黄色」と西洋人の「白色」という、決して変えることができず、かつ私たちが忌避しがちの肌の色の問題を正視することで、日本近現代史を捉えなおそうとするなかなかの力作です。

 明治から戦後まで通史的に章立てされていますが、著者の主張はこうです。明治維新以後、日本は近代国家としての存続を図るために、制度や法律、軍隊から、衣食住や心性、価値観といったレベルまで、あらゆる事柄で西洋化を追求した。日露戦争を経て、第一次大戦後に「五大強国」唯一の非西洋国として国際社会に参入するが、パリ講和会議では人種平等案の国際連盟規約への挿入に失敗し、米国では排日移民法制定による人種的排除を受ける。日本の知識人は、西洋人との埋めることのできない人種的差異、すなわち肌色の違いに劣等感と憂鬱、「淋しさの感情」をどこかで抱き、それゆえに戦前はドイツ、戦後はアメリカと、西洋へ過度に心理的な依存をしてきた、というのです。

諸田 私がこの本で納得したのは、まさにその依存です。1952年に行われた取材によると、ある高校2年生は、敗戦時こそ宮城前でアメリカへの復讐を涙ながらに誓ったものの、7年間、進駐軍の文化の中で育つと、「アメリカ人に生れたらよかつた」と答えるようになっていた。私もそうした時代に育ったので、小さい頃観たドラマはアメリカのものだったし、この高校生の言葉に違和感がないのです。一方で、原爆によって多数の人々が犠牲となりながら、なぜ日本人はこんなにも寛容で、アメリカに憧れるのか、不思議でもありました。つまり、もともと戦争前から反米などという心理はなく、戦争で負けたから劣等感や卑屈さを抱くようになったのでもなく、初めから日本人は西洋人への無条件の尊敬と人種的な卑屈さを持っていたことがよくわかりました。

山内 それはドイツに対しても同じだったのです。ヒトラーが著書『わが闘争』でゲルマン民族の人種的優越を述べる一方、日本人は「文化維持者」に過ぎないと二流扱いし、また、1933年、ベルリンでドイツ少年から「ヤップ」と侮辱された日本人少女が抗弁したために棒で顔を殴られる事件が起きるなど、ドイツには日本を蔑視する風潮があった。しかし、日本を差別している国となぜ同盟を結ぶのかという議論は盛り上がらなかったのですね。いまの日米関係と似ているかもしれませんが、ドイツという白人国家と同盟を結ぶことを名誉と考えるエリートが多かったのでしょう。

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この記事の掲載号

2014年10月号
2014年10月号
「昭和天皇実録」の衝撃
2014年9月10日 発売 / 定価880円(税込)
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