著者は語る 文藝春秋 掲載記事

遠野の女大名と、カモシカの角と河童の物語

『かたづの!』 (中島京子 著)

佐久間 文子 プロフィール

さくま あやこ/1964年、大阪府生まれ。1986年、朝日新聞社に入社。文化部、「AERA」、「週刊朝日」などで主に文芸や出版についての記事を執筆。2009年から2011年まで書評欄の編集長を務める。2011年に退社し、フリーライターとなる。

集英社 1800円+税

 初めての時代小説である。大学時代の恩師を訪ねた折、もらった冊子に「遠野に女大名がいた」という一文があり、中島さんを四百年前の世界に引き寄せた。

「江戸時代の大名といえば男ばかりの世界と思っていたのでびっくりしました。とはいえ最初は『誰か書かないかしらね』なんて他人事だったんですけど、編集者に『遠野に面白い人がいて』と話すと『行くだけ、行ってみましょう』と。そのとき清心尼(祢々(ねね)。八戸氏二十一代当主)のお墓にも詣ってきました」

 二〇一〇年のこと。翌年、東日本大震災が起きて、中島さんは再び、遠野や沿岸部の釜石などを訪れる。

「津波で破壊された家の跡を見て、これは書かなきゃいけないと思いました。祢々は、遠野に国替えになる前は八戸で生まれ育ち、三陸大津波も経験しています。こういう人がいた土地だということだけでも伝えたい、と心を決めました」

 十九代当主の娘である祢々は叔父南部直政を婿に迎え娘二人、息子一人を産むが、夫と幼い息子を立て続けに亡くす。南部宗家の陰謀を疑う声もあるなか、祢々は女亭主となることを決意。国替えや領土侵犯など数々の困難に立ち向かう。

「どうすれば、家臣や領民を生き延びさせられるか。史料を読むと、一生懸命に考え、一貫して彼らを守る決断をしています。この人だったら四百年前の話でも書けるんじゃないかという気がして」

 史実や伝承に埋もれた物語のかけらを作家の想像力がつなげて膨らませる。語り手を南部の秘宝として伝わる「天竜の片角」にしたのが独創的だ。

「書きあぐねていたときに、昭和になって片角がカモシカの角だと調べた研究者がいたと知り、じゃあ語り手をカモシカにして、死んだ後はその角を神様にすれば見ていないこともいろいろ書けると思いつき、物語が転がり出しました」

 ラテンアメリカなどの海外文学を思わせる設定だが、「この小説に人ならざるものがたくさん入り込んできたのは、東北という土地がそうさせたんじゃないかと思います」と中島さん。

 遠野ゆかりの河童も物語を彩る。「河童=八戸発祥説」があると知ったときは小躍りしたという。祢々にひとめぼれする河童の妻を同じ名前にしたのも、利根川流域一帯を治めた「祢々子」という河童の女親分の伝承を読んだことによる。

「河童の祢々子を知ったときも興奮しました。題材に『書け』『書け』って言われて書かされた気がする小説です」

この記事の掲載号

2014年11月号
2014年11月号
総力取材 世界の「死に方」と「看取り」
2014年10月10日 発売 / 定価880円(税込)
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