書評 文藝春秋 掲載記事
文藝春秋BOOK倶楽部特別篇 戦後の名著「わたしのベスト3」

共同幻想の解明

『共同幻想論』『豊饒の海』『笹まくら』

評者鹿島 茂 (明治大学教授) プロフィール

かしま しげる/1949年神奈川県生まれ。明治大学教授。博覧強記を活かして、文学、歴史、書物を横断する著作活動を続ける。『馬車が買いたい!』(白水社)、『ナポレオン フーシェ タレーラン』(講談社学術文庫)、『大読書日記』(青土社)など著書多数。

『共同幻想論』吉本隆明/角川ソフィア文庫
『豊饒の海』三島由紀夫/新潮文庫/(全4巻)
『笹まくら』丸谷才一/新潮文庫

 吉本隆明は一九二四年一一月二五日生まれ。三島由紀夫は一九二五年一月一四日生まれ。丸谷才一は一九二五年八月二七日生まれ。吉本と三島は学年的には同学年。三島と丸谷は同じ年の生まれである。ちなみに三島が自刃した日は吉本の四六歳の誕生日に当たる。

 考えてみれば、一九四九年生まれの私はこれら一九二四~五年生まれの文学者たちから一番強い影響を受けてきたわけで、戦後ベスト3もこの世代の七〇年前後の代表作を選んだ。

 吉本隆明『共同幻想論』は集団の無意気というものがどのような経路で生まれるのかという根源的な問いをマルクス主義に拠らずに問うた作品で、いま思うと、兄妹・姉弟の対幻想の替わりに兄弟同士・姉妹同士の幻想というのをもってくればエマニュエル・トッドの家族人類学に近くなり、吉本が抱いた構想に論理的な筋が一本通ったのではないかという気がする。

 三島由紀夫『豊饒の海』は、初読のさいはその意図がよくわからなかったが、現在は三島なりに日本人の共同幻想のルーツを探る試みであったとわかる。直系家族が歪むとき、そこに母系の要素が介入して東南アジアのアノミー家族と連結するということだろうか?

 丸谷才一『笹まくら』は直系家族社会に生きる本質的核家族的人間の孤独地獄を見事に浮き彫りにしたもので、丸谷がついに描かなかった軍隊という組織が小説の標的であったことが暗示されている。

 互いに相手を認めなかった三人だが、吉本と丸谷の根底にあるのは核家族的個人主義であり、三島は個人主義を標榜しながら失われた直系家族へのノスタルジーを本質としていた。その違いは吉本が三男、丸谷が次男であったのに対し、三島が長男であったことから来ているのではなかろうか? ただし、近代日本という共同幻想の解明をライフワークとした点で、三人は見事なくらいに同世代性を示しているのである。


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