鼎談書評 文藝春秋 掲載記事

古きよき新聞人へ贈る挽歌

『天人 深代惇郎と新聞の時代』 (後藤正治 著)

講談社 1800円+税

山内 「天人」とは、朝日新聞朝刊下段にあるコラム「天声人語」の略称です。この欄の執筆担当者として「他紙を含め、新聞史上最高のコラムニスト」の誉れ高いのが深代惇郎(ふかしろじゅんろう)です。本書には、深代と彼の回りに集った「昭和二十八年組」と呼ばれた同期や、先輩、後輩、友人など、多くの新聞人たちも出てくる。なかには私の知人もいて興味深かった。

片山 深代の「天声人語」は私が小学校の高学年の頃でしたが、あの時代は、とにかく毎日読めば国語力、論理力が上がると、「天声人語」が神聖化されていたものです。

山内 深代の執筆期間は2年9カ月という短いものでした。没後40年も経とうとしているのに、いまだに評価されるのはなぜか。実際に、1973年10月31日の「天声人語」を読んでみましょう。

「大きな声ではいえないが、ふとしたことで盗聴テープが筆者の手に入った。驚いたことに、先日の閣議の様子がそっくり録音されているではないか。そのサワリを、こっそりご紹介しよう▼テープを信用できるなら、この日の閣議の話題はやはり田中内閣の人気についてであった」

 話題は、支持率が低迷する田中角栄内閣の人気をどうやって上げるか……らしい。「ゴルフ人口は一説に一千万人」と言ってゴルフ庁創設が議論になる。尾崎将司の立候補、ゴルフ減税、総理大臣杯などの案が出て、長官人事では「石原慎太郎君はどうだ」「彼は飛ばしすぎだ」などと掛け合いが行われる。ゴルフ庁の構成となると、ゴルフ利権をめぐる役所の陣取り合戦で議論は紛糾。結局審議会設置を決めて「テープは終わっている。あのテープ、どこにしまったのか、その後いくら捜しても見つからない」。滑稽だが、どこかありそうなこの話は、題して“架空閣議”。もちろんこんな盗聴テープは存在せず、深代一流のユーモアなわけです。

片山 これによって朝日新聞は二階堂進官房長官より厳重抗議を受けますが、翌日の「天声人語」がまた冴えています。「『大きな声でいえない話』を新聞に書くはずもない。(略)『こっそりの話』を活字にするわけがない」とした上で、アメリカのコラムニストは時事問題について、政治家の会話を創作して、風刺やジョークで読者を楽しませるが、日本の読者には馴染まなかったか、と結んでいます。

池内 アメリカ大統領が記者会見から戻って控え室で吐いた罵詈雑言が、マイクがオンで丸聞こえになった、という事件はよくありますが、これは大体補佐官による演出なんですよ。つまり、大統領はまだまだ闘争心がある、大丈夫だ、と。ユーモアのセンスがかけらもない官房長官は、政治家の無能、政治の貧困のあらわれだと思いますね。

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2015年2月新春号
2015年2月新春号
読者投稿 素晴らしき高度成長時代
2015年1月10日 発売 / 定価880円(税込)
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