今月買った本 文藝春秋 掲載記事

イスラム国をどう読む

『21世紀の資本』『現代思想1月臨時増刊号 ピケティ「21世紀の資本」を読む』『トマ・ピケティの新・資本論』ほか

池上 彰 プロフィール

いけがみ あきら/1950年生まれ。慶応義塾大学を卒業後、NHKに入局。報道記者として活躍。2005年に退局し、フリーに。ニュースをわかりやすく解説し、テレビや雑誌で人気を博す。『伝える力』『宗教がわかれば世界が見える』など著書多数。

 このところフランスの経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本』が、六〇〇〇円近くもするのに、一〇万部をはるかに超える売れ行きです。

 おお、日本にもこんなにインテリがいるのか、と驚きますが、実は「話題になっているから買ってみようか」という人も多いのだろうと推測します。それでも、知的好奇心のある人が大勢いることは、日本という国にとっての財産です。

 ただし、一般の人にとって、読み通すことは大変なこと。手っ取り早く内容を知ろうと、解説する本もベストセラーになっています。

 そこで、とりあえず手に取ったのは『現代思想1月臨時増刊号』。ピケティ特集でピケティ本人へのインタビューもあります。訳者の山形浩生さんが「雑誌の常として玉石混交なんだけど、玉の比率が非常に高い」(http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/)と評価されているので購入。

 さらに『トマ・ピケティの新・資本論』という、これまた大部な書物が出ました。実はこれフランスの左派系紙「リベラシオン」に連載してきたコラムをまとめたものです。なんだ、新しい書下ろしではないのか、と突込みを入れたくなりますが、この題名なら、こちらの本も手に取る人が多いでしょうね。でも、フランスやEUをめぐる時事評論は、古くなったものもありますが、ピケティが現実とどう切り結ぼうとしているかが理解できます。

 さて、今年は戦後七〇年。さまざまな企画本が目白押しでしょう。その中で、日本とドイツの一九四五年を同時に描いたのが『廃墟の零年1945』です。日本の戦後に何が起きたのかは、多くの人が知っていますが、このときヨーロッパでは何が起きていたのか。興味深い事実の数々に衝撃を受けます。

 年が明けても世界を騒がせている「イスラム国」。私も関連の本の解説を書いているので、その本は取り上げず、ここでは『「イスラーム国」の脅威とイラク』を紹介します。「イスラム国」関連本は多数出版されていますが、この本は専門家たちが役割分担をして書いたもの。専門的な見地からはどう見えるのか、真面目に勉強するにはピッタリです。

 国際情勢の裏側では、熾烈な情報戦が展開されています。全体像を把握するのは困難ですが、とりあえず内情を垣間見ることができるのが『非情世界』。こうした本を読むと、日本のインテリジェンス機関はどうなっているのか、と慨嘆したくなります。「ウサギは長い耳を持つ」といいます。平和主義を掲げる日本だからこそ、銃弾を撃ち合うことのない情報戦に耐える組織が求められています。

 書店の店頭を毎日のように散策するのが趣味の私が、思わず目を止めたのが、『日本語の科学が世界を変える』。「母国語が日本語の人で、きちんと日本語で文章表現できない人が、英語できちんと科学を表現できるはずがない」という主張には、我が意を得たり、です。ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英さんは、「私は英語が話せない」と挨拶しましたし。

 二〇一四年は朝日新聞が多くのメディアの俎上に上げられましたが、批判の急先鋒だった読売新聞は、ではどのようなメディアなのか。『近現代日本政治と読売新聞』は、社説や連載記事を丁寧に読み解くことで、社論に極力抵抗しながら記事を書いている記者たちの様子を浮き彫りにします。

 こうして多数の本を連日購入している私ですが、成毛眞さんの本好きには負けます。そんな成毛さんが書いたのが『本棚にもルールがある』。「私は本好きである。メンテナンスをしなければただただ増えていく本の中で暮らす運命の下に生まれたようなものだ」。私も「メンテナンス」を考えなければ。

 今年一月、極寒のロシア取材の伴侶になったのが『米露開戦』。さすがトム・クランシー。遺書のようになった同書はウクライナ情勢を予言していました。

  1. 『21世紀の資本』 トマ・ピケティ著、山形浩生・守岡桜・森本正史訳 みすず書房 5500円+税
  2. 『現代思想1月臨時増刊号 ピケティ「21世紀の資本」を読む』 青土社 1300円+税
  3. 『トマ・ピケティの新・資本論』 トマ・ピケティ著、村井章子訳 日経BP社 2200円+税
  4. 『廃墟の零年1945』 イアン・ブルマ著、三浦元博・軍司泰史訳 白水社 3200円+税
  5. 『「イスラーム国」の脅威とイラク』 吉岡明子・山尾大編 岩波書店 1700円+税
  6. 『非情世界』 朝日新聞取材班 朝日新聞出版 1400円+税
  7. 『日本語の科学が世界を変える』 松尾義之 筑摩書房 1500円+税
  8. 『近現代日本政治と読売新聞』 高橋義雄 明石書店 2500円+税
  9. 『本棚にもルールがある』 成毛眞 ダイヤモンド社 1400円+税
  10. 『米露開戦』(1・2) トム・クランシー、マーク・グリーニー著、田村源二訳 新潮文庫 各630円+税

この記事の掲載号

2015年3月特別号
2015年3月特別号
芥川賞発表 受賞作全文掲載 小野正嗣 「九年前の祈り」
2015年2月10日 発売 / 特別定価930円(税込)
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