著者は語る 文藝春秋 掲載記事

「芸能人の自分」を今から見ると、本当に他人みたい

『芸能人の帽子』 (中山千夏 著)

佐久間 文子 プロフィール

さくま あやこ/1964年、大阪府生まれ。1986年、朝日新聞社に入社。文化部、「AERA」、「週刊朝日」などで主に文芸や出版についての記事を執筆。2009年から2011年まで書評欄の編集長を務める。2011年に退社し、フリーライターとなる。

講談社 2500円+税

 自分が書かれた記事をもとに、中山千夏と彼女がいた時代を浮かび上がらせる。芸能人としての自分についての記事を、ここまで徹底的に分析・検証した人はほかにいないのではないか。

「昔の記事を読んだのが本を書くきっかけです。テレビに出なくなって四十年近くになり、芸能人の自分は今の自分から見ると本当に他人みたい。なんで私はこんなことをしていたんだろう、と不思議に思う気持ちがありました」

 舞台の人気子役から売れっ子芸能人へ。歌も出せばワイドショーの司会もする。テレビドラマにも主演、「チナチスト」という熱狂的なファンも生まれた。

「あのころのことはほとんど覚えていない。そこだけ記憶がないんですよ。たぶん、あんまり忙しくて、いやになっちゃってたんだと思う」

 前著『蝶々にエノケン』では記憶に残る舞台共演者の姿を活写した。続くテレビ時代は同じ手法で書けないと思ったのは、「舞台みたいに役者どうし、人と人との関係が密ではないから」だそう。

 千夏さんの母が保存していたスクラップと、大宅文庫で集めた記事を丹念に読み解いていくなかで、遠い記憶、そのときどきの情景がよみがえる。

 言った覚えのないことを憶測で書かれた経験も数多いが、見出しに腹を立てた記事の中身を初めて読んだら思いがけず正確だった、ということもあり、書きながら発見の連続だった。自分も加担したかたちになった「捏造」交際報道や、よど号事件に関するただ一度の自らの「失言」についても公平にページを割く。

 本に登場する、草創期のテレビにかかわる人たちの豊かな個性とまじめさが印象に残る。のちに政治の場で決裂することになる青島幸男の描き方も、身近にいた人ならではの鋭い観察が興味深い。

「若いときって、白か黒かになりがちですよね。だけどよーく見ると、その人なりに一生懸命生きてる。そういう視点で人を見られるようになってきました」

 千夏さんにとって「芸能人」はいまでも「帽子」のようなものだという。

「脱いでどこかにしまっちゃって、『あれ、どこにやったかしらね』って。でもね、私の唯一のヒット曲(「あなたの心に」)をつらいとき歌ってたと言ってくれる人や、『ひょっこりひょうたん島』を子供のころ見てましたなんて人にいっぱい会うんです。その言い方がすごく楽しそうだから、このごろは『よかったな』と思うことのほうが多いです」

この記事の掲載号

2015年3月特別号
2015年3月特別号
芥川賞発表 受賞作全文掲載 小野正嗣 「九年前の祈り」
2015年2月10日 発売 / 特別定価930円(税込)
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