鼎談書評 文藝春秋 掲載記事

文系読者でも一気読み必至の「宇宙通史」!

『生命の惑星 ビッグバンから人類までの地球の進化』 (チャールズ・H・ラングミューアー、ウォリー・ブロッカー 著/宗林由樹 訳)

京都大学学術出版会 6200円+税

鎌田 実に650ページもある科学書を取り上げて、みなさんにはご迷惑をおかけしました(笑)。しかし、宇宙137億年の歴史を、科学に疎い文系の人でも簡単に理解することができる、という意味で極めて秀逸な本です。宇宙の誕生から、地球の成り立ちと環境の変化、人類の未来までを言わば小説のように一気に読むことができます。

 本来、科学とは、「要素還元主義」、つまり対象をできるだけ細分化することで自然現象を理解してきました。これは物理学、これは数学、というように内々だけで議論する。しかし、地球は複雑なので、化学、生物学、地質学からはては歴史学や経済学まであらゆる学問を総動員しないとうまく解析できません。つまり、地球科学は「全体論」の学問であり、他の科学とは全く異なる。そこが面白いんですね。

 地球温暖化問題では、結局のところ、温暖化しているのか、していないのか、今でも意見が分かれています。これは現象を捉える「視座」が違うからで、ある意味両方とも正しい。数十年単位のミクロで見れば、最近30年で平均気温は0.5度上昇しており、温暖化に向かっています。一方、数万年単位のマクロの視点では、現在は暖かい「間氷期」にあり、今後は温度が下がり、氷河期へと移るのは確実です。極論すればむしろ化石燃料をどんどん燃やさないと、農作物が収穫できなくなるかもしれない。二酸化炭素は食糧を作る光合成に不可欠な物質なんです。そこで、COP(気候変動枠組条約締約国会議)やICPP(気候変動に関する政府間パネル)は、短期間の変化に注目するから、前者の意見になる。政治家や経済人もそれに乗っていますね。一方、長い時間軸の地球科学者は、後者の立場です。

 このように尺度が違うと、導かれる結果も異なるのです。私の場合は「長尺の目」で見るから、1万年というのが最低の尺度です(笑)。

山内 私の歴史学を手法とする現状分析のスパンは100年で、これでも長いと言われ世の中には受けないのですが、1万年とは桁が違いますね。

 この本で勉強になったのは、私たちが近世・近代史の範疇で捉えているセント・ヘレンズやピナツボ、ラキ火山の噴火を、地球史という観点から見た意味です。とくに、18世紀末の、アイスランドのラキ火山の噴火では、15立方キロメーターの玄武岩溶岩を噴出して、大量のSO2を出した。アメリカ東部の冬季の気温が平均より約5度低下し、アイスランドは人口の4分の1が餓死、家畜のほとんどを失ったというのですね。世界史の視点からすれば、特筆すべき大災害なのですが、この本によると、数万年のスパンからすれば、全く影響がないというのです。

【次ページ】歴史学との共通性

この記事の掲載号

2015年5月号
2015年5月号
大型企画 患者が知らない「医療の真実」
2015年4月10日 発売 / 定価880円(税込)
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チャールズ・H・ラングミューアーウォリー・ブロッカー宗林 由樹山内 昌之片山 杜秀鎌田 浩毅

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