鼎談書評 文藝春秋 掲載記事

文系読者でも一気読み必至の「宇宙通史」!

『生命の惑星 ビッグバンから人類までの地球の進化』 (チャールズ・H・ラングミューアー、ウォリー・ブロッカー 著/宗林由樹 訳)

歴史学との共通性

鎌田 ただ、「もしも/If」がないという点は、歴史学と共通しています。つまり、時間を戻すことも、物理や化学や数学のように再現することもできない。「非可逆性」です。たとえば隕石が落ちたことで恐竜が大量絶滅した。もし、隕石が落ちなかったら、恐竜がいまだに闊歩して、我々は哺乳類ではなかったかもしれない。その意味では、絶えず偶然が左右するんです。

片山 私が面白いなと思ったのは、太陽系の中の地球の位置です。今よりも内側すぎれば熱すぎてダメだし、外側すぎると惑星の構造自体が成り立たない。まさに、ちょうどいい場所だったと。

鎌田 ちょうどいい場所にあったがゆえに、生命に不可欠な水が液体で残った。熱しにくく冷めにくい「定常性」ですね。ただ、この定常性もやがて崩れていきます。太陽系の寿命は100億年と考えられていて、地球が誕生してから46億年です。マラソンで言えば折り返し地点です。しかし、あと10億年もすれば明るくなった太陽のため、地球上の水はみな蒸発する。すべてが干上がる「生命の終焉」ですね。

山内 水に関する危機はしっかり書かれていますね。グリーンランドや南極の氷床が融解すると、海面が6~12メートルも上昇するので、南フロリダは水没する。ペルーのように、山頂の氷河の融解水を利用していた地域は、深刻な水不足に襲われるというのですね。

 また、中国や東南アジア、インドの水はすべてチベットの水源からで、中国がチベットを頑なに維持しようとするのは、むべなるかなだと。こういう指摘はわかりやすい。

 このレベルで歴史をとらえるということになると、我々が知っている歴史の事実や、いろいろな事象が相対化されたり、ほとんど無視されることになりますね。たとえば、すべての動物は食物探しに駆り立てられるもので、ホモ・サピエンスも例外ではない。古代ポリネシア人が太平洋の島々に入植して、そのときに鳥の在来種の75%が絶滅した。このとき、古代ポリネシア人は、まさに侵略者ともいうべき役割を果たしているんですね。ところが、後になってくると、今度はジェームス・クックら西洋人がやってきて、ここの人間たちは絶滅してしまうでしょう。

鎌田 もともと科学には「倫理」がありません。事実だけを見つめて、価値や是非を判断しないようにしている。そして、そこにつけ込まれてしまったのが現代なのです。だから、科学者が得た事実を事実として弁えた上で、次にどうすべきかを別個に考えないといけない。本書にはそのベースが記されています。

片山 広範な内容がわかりやすく書いてあって、科学系の新書を100冊読むぐらいの内容がある。

鎌田 それに、記述も平易で、比喩がまた上手です。たとえば、あの複雑な「放射年代測定」を預金口座の入出金で説明してみたり、美術館に絵画を観に来た芸術家と旅行客の関係で説明したりする。ストーリーテラーとしての著者の能力はハンパじゃない。私も長年「科学の伝道師」を標榜してきましたが、もう脱帽ですね。一人の著者が歴史全部を執筆したことで、一貫した「哲学」もあります。

山内 2009年、国連気候変動首脳会合で、温室効果ガスの90年比25%の削減などと素っ頓狂な演説をした鳩山由紀夫元首相に読んでもらいたかった(笑)。この本くらいの知見があれば、もう少しまともな演説ができたのではと御当人も悔やむかもしれない。

評者山内 昌之,片山 杜秀,鎌田 浩毅

この記事の掲載号

2015年5月号
2015年5月号
大型企画 患者が知らない「医療の真実」
2015年4月10日 発売 / 定価880円(税込)
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