著者は語る 文藝春秋 掲載記事

悩みに軽い重いをつけちゃあいけません

『人生案内 出久根達郎が答える366の悩み』 (出久根達郎 著)

佐久間 文子 プロフィール

さくま あやこ/1964年、大阪府生まれ。1986年、朝日新聞社に入社。文化部、「AERA」、「週刊朝日」などで主に文芸や出版についての記事を執筆。2009年から2011年まで書評欄の編集長を務める。2011年に退社し、フリーライターとなる。

白水社 1400円+税

 読売新聞で百年続く読者の悩み相談、「人生案内」欄の回答者をつとめて十四年。出久根さんが担当した中から、相談と回答三百六十六本をまとめて一冊に編んだ本にはさまざまな人生が凝縮されて、まるで滋味深い小説を読むようだ。

「編集者が『この本は、人間のドラマとして編集しましょう』と言ってくれたんです。構成などすべておまかせしたら、非常にコクのある本になりました」

 相談者は、下は中学生から、上は九十代まで。家族の悩みに夫婦の悩み。お金の悩みに職場の悩み。誰もが身に覚えのあるものも多いが、「義母が私の写真に針を刺していた」など、「本当にこんなことが起きるのか」と思わず絶句する悩みも時折まじる。

「私が小説家だからか、答えにくい質問ばかり回って来る気もするんだけど(笑)。たいせつなのは、『あなたの悩みはたいしたことないですよ』とは絶対言わないということですね。悩みに軽い重いをつけちゃあいけません」

 回答を書いたあともしばらく寝かせ、第二案、第三案を書いてみることもある。基本は温かく受け止めるが、意表をつく回答や、きっぱり苦言を呈することも。

「私どもが子供のころって、町内に必ず口うるさい爺さんというのがいたわけです。子供が悪いことをすれば、ずけずけ叱る。『人生案内』も、たまに厳しいことを言わないと、甘ったれた悩みばっかり集まっちゃう。相談者を叱るというより、世の中の風潮に対して一本、釘を刺しておく。この欄は、時代の風潮を見る鏡でもあり、世の中がおかしな方にいくことへのひとつの歯止めにもなってるんじゃないかと思うんです」

 十四年間で最も印象に残るのは、大病を患った男性からの、「父親になっていいのか」という相談だという。交際相手の女性に子供がほしいと言われたが、道義的に許されるだろうか。悩みに悩んで出した出久根さんの答えは「同意なさい。あなたはその子のために、生きなさい」だった。相談者のその後は追跡しておらず、いまも、それでよかったか気になるそうだ。

「『人生案内』を担当すると、小説のネタが見つかるでしょう? とよく言われるんだけど、できないですよ。相手に失礼です。それをしたら回答者としての姿勢を問われると私は思うんですね」

 そんな古風なまじめさが、読者の共感と信頼を得る、いちばんの理由である。

この記事の掲載号

2015年5月号
2015年5月号
大型企画 患者が知らない「医療の真実」
2015年4月10日 発売 / 定価880円(税込)
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