著者は語る 文藝春秋 掲載記事

年をとることも、面白がらなくっちゃ損

『百歳までの読書術』 (津野海太郎 著)

佐久間 文子 プロフィール

さくま あやこ/1964年、大阪府生まれ。1986年、朝日新聞社に入社。文化部、「AERA」、「週刊朝日」などで主に文芸や出版についての記事を執筆。2009年から2011年まで書評欄の編集長を務める。2011年に退社し、フリーライターとなる。

本の雑誌社 1700円+税

 年をとることはさまざまな変化を伴う。読書のスタイルもまた例外ではない。

 評論家として、また編集者や大学教授・図書館長として、職業的にも深く本とかかわってきた津野さんが、七十代に入り、体の衰えや収入の減少といったわが身の変化と、読書習慣の変化におどろき、面白がって書いたのが本書である。

「だって面白がらなくっちゃ損だもの(笑)。五十歳を過ぎて、このまま一人で年をとっていくのかなという状況を面白がって書いたのが、初めてのエッセイ集『歩くひとりもの』。人から見たら大変だったりすることも、だいたい面白がってしまう性質なんだと思います」

 つねに何足ものワラジを履き、本をバラバラにして必要なページだけ持ち歩いて読む「路上読書」の大ベテランが、七十歳で退職、現場を離れてはじめて身につけたのが机に向かって本を読むクセ、というのがなんともおかしい。

「そうかね。みんな、どうやって本を読んでるの? 歩きながら読んでいたのを机に向かってゆっくり読むようになったら、これまで頭に入ってこなかった文章も読めるのが発見でした」

 蔵書の削減も試みた。冊数を決め、段階的に減らす計画は途中で断念したが、いまは、「どの著者の本も三冊までに絞ろうかと考え中」だそう。○○せねばならない、と決めつけられるのは嫌いで、「速読、多読」の本、「遅読」をすすめる本のどちらにも猛然と異をとなえる。

 縦横に引かれる、読書にまつわる文章が魅力的だ。幸田露伴が知識の習得を水が凍るときのようすにたとえた、「知識というのは/手が八方にひろがって出て、それがあるときふっと引き合って結ぶ」という一文に目をひらかされた。

「自分について書くのはどうも得意じゃない。べったり、日記みたいに書きたくないから、引用を通してちょっと間接化しようという意識が働くんですね」

 電子化の変革期を前に創刊された雑誌「本とコンピュータ」の編集長をつとめた。日常的にコンピューターを使い、いまもときどき、「祭り」と称して、興味あるジャンルの本を集中的に読破する「二十一世紀老人」である。

 新世代の老人は、「ここまでくれば、もはやどこにも逃げ道はない。ふんわりと頼りなかったじぶんの人生の底に、思いがけない固い岩盤が出現した」と書く。

「もうすぐ必ず死ぬってことをベースに生きることの確かさというのかな。この年になってはじめてわかった感覚です」

この記事の掲載号

2015年9月号
2015年9月号
芥川賞発表 受賞作二作全文掲載
2015年8月7日 発売 / 特別定価970円(税込)
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