文藝春秋SPECIAL
ビジネスに効く! 世界の宗教Q&A

イスラム過激派は
なぜ文化遺産を破壊するのか?

ISだけではない破壊の連鎖。テロリストの戦略と論理を探る

高木 徹 (NHKチーフプロデューサー) プロフィール

たかぎ とおる/1965年東京都生まれ。1990年、東京大学文学部卒業後、ディレクターとしてNHKに入局。『大仏破壊』(文春文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。その他の著書に『国際メディア情報戦』(講談社現代新書)など。

 今年の五月以降、IS(イスラミックステート)が、ユネスコの世界遺産にも登録されているパルミラ遺跡を支配下に置き、貴重な神殿を爆破するなど大規模な文化遺産破壊を行っていることが報道されている。世界の論調はもちろんこれを蛮行として厳しく非難している一方、IS自身は、他のさまざまな残虐行為と同様、誇示するかのように、きのこ雲のような爆煙とともに遺跡が吹き飛ぶ模様を捉えた画像や映像をネットに流している。

 こうした文化遺産の破壊は、実はISに限られたことではない。他のイスラム過激派にも例は多い。たとえば最近のニュースでは、九月末に、戦争犯罪を裁く国際法廷であるオランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)の検察局が、やはりユネスコの世界遺産に登録されているアフリカ・マリの都市トンブクトゥの霊廟を破壊した罪で、現地のイスラム過激派のメンバーを逮捕しハーグに移送したと伝えられた。

 これは二〇一二年夏に、マリ北部で勢力を拡大していたイスラム過激派アンサル・ディーンが起こした文化遺産破壊が、国際戦争犯罪として裁かれるに至ったということを意味している。アンサル・ディーン自体はローカルな組織だが、北アフリカ全般でより広範な勢力を持つAQIM(イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ)と共闘関係にあるとされ、そのAQIMのメンバーだったベルモフタル容疑者は、二〇一三年一月に、アンサル・ディーンをフランス軍が軍事攻撃したことに抗議して、隣国アルジェリアの砂漠地帯にある天然ガスプラントを襲撃し、そこにいた日本人が殺害される痛ましい人質事件がおきた、という形で私たち日本人にも繋がってくる話だ。他にも、イスラム過激派による文化遺産破壊のニュースは例が多い。

 それでは、なぜ彼らはこんなことをするのだろうか。古代の遺跡を破壊しても敵の戦力が減るわけではないし、そんなことをすれば、世界中に悪名が轟(とどろ)き、国際戦争犯罪の容疑者として逮捕される危険さえあるのに、である。

「大仏破壊」という先例

 パルミラ遺跡を破壊するISも、トンブクトゥの霊廟を破壊するアンサル・ディーンも、その蛮行に手を染めた者たちの頭にあったに違いない巨大な文化遺産破壊の「先例」がある。

 それは、九・一一同時多発テロが起きる半年前、二〇〇一年三月に、アフガニスタンでおきた「バーミアン大仏像の爆破」である。

 この事件は、前後の状況も含めて当時世界に広く報道され、日本でも多くの人の耳目をひき、破壊を阻止すべく与党三党の代表団がアフガニスタンを急遽訪問する、という展開を見せたので、覚えている方もいるかもしれない。

 私はこの「バーミアン大仏破壊」の顛末(てんまつ)を詳しく取材し、『大仏破壊 ビンラディン、9・11へのプレリュード』(文春文庫)にまとめさせてもらった。その要点は、この大仏破壊は、九・一一の破壊(大仏像も二体あり、WTC同様に“ツインの巨大建造物”だった)の「前奏曲」だった、と解釈する現代史ミステリーの解読にあるが、詳細は同書に譲るとして、なぜイスラム過激派が文化遺産を破壊するかという点の解明に絞れば、その狙いは明らかである。

 彼らは「遺跡はイスラムの教えに反する偶像崇拝である。あるいは異教徒の宗教施設である。だから破壊することがジハード(聖戦)である」という理屈で破壊するのだが、実のところ、国際的なジハード主義を信奉する彼らの本質である「国際PR戦略」の手法として、これほど効果的な手段は他にそうないからである。

【次ページ】

関連ワード

高木 徹

文化・歴史の新着記事 一覧を見る RSS

登録はこちら

文藝春秋について 毎月10日発売 定価880円(税込)

※発売日・価格は変更の場合があります。