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なぜ増える? イスラム教への改宗

欧米でイスラム教に改宗する人々が増えている。その背景には欧米社会の行き詰まりがあった

浅川 芳裕 (ジャーナリスト) プロフィール

あさかわ よしひろ/1974年山口県生まれ。カイロアメリカン大学(中東史学)、カイロ大学(セム語学)中退後、アラビア語通訳、ソニー中東本社、編集者を経て、2014年に独立。著書に『日本は世界第5位の農業大国』(講談社+α新書)など。

 イスラム教は今、世界最速で成長している宗教である。その信者数は世界最大の人口を誇るキリスト教に肉薄し、二〇七〇年には追い越すと予測されている(米ピュー・リサーチ・センター調査、二〇一五年)。

 キリスト教が信者数で世界最大の宗教になったのは大航海時代が始まった一五世紀以降のこと。六〇〇年を経て、イスラム教に信者数第一位の座を明け渡すことになる。人類史における大転換点と言えよう。

 その要因は三つある。一つめはイスラム教徒の出生率の高さ。二つめは若者人口の多さ。三つめが本稿のテーマである改宗者の急増である。前出の調査では、二〇五〇年までに一億六〇〇万人がキリスト教徒をやめ、改宗先として最も多くの割合を占めるのは、イスラム教だと予測されている(無宗教は除く)。

 ではなぜ、キリスト教徒はイスラム教に改宗するのか。どんな人が改宗し、その理由は何なのか。そもそも改宗者はイスラム教のどこに魅力を感じたのか。実際の改宗者の証言に耳を傾けながら、その背景や変遷を探っていくことにしよう。

女性改宗者の声

 改宗者が増えている国の一つがイギリスである。「改宗者数はここ一〇年で一〇万人を突破。改宗者の三分の二が女性でその七割が白人、平均改宗年齢は二七歳となっている」(英スウォンジー大学調査、二〇一一年)。

「イギリス社会に蔓延する消費主義と不道徳にうんざりしたこと」がもっとも多い改宗の理由だ(同前)。「消費主義と不道徳」の具体例としては、「アルコールと酔っぱらい文化」「性的な許容性の高さ」などが筆頭に挙がる。

 改宗後にもっとも変わった点について、女性回答者の九割が「保守的な服装をするようになった」と答えている。女性改宗者の一人は、次のように改宗の経緯を打ち明ける。

「私は典型的な白人でパーティ好きの十代の女性でした。露出度の高い格好で酔っ払っては、複数の男性とデートを楽しんでいました。そんな生活を続けていくうちに、ある日、何かが欠けていると感じたのです。そんなときイスラム教徒のボーイフレンドに出会って、一九歳で改宗しました。ヒジャーブ(イスラム教のスカーフ)を身に着けていますが、以前の服装に比べて私はずっと自由です」(ジャック・ドイル氏による英デイリーメイル紙への寄稿記事より)

 どこが自由なのか。こう説明する。「自分の逃げ道が見つかったことに感謝しています。一日五回礼拝するのが幸せでモスクに通い、イスラム教の授業も取っています。おかげで私は壊れた社会とその期待に対する奴隷ではなくなったのです」(同前)

 米プレイボーイ誌の元モデル・ジャミーも似通った理由を挙げる。彼女が気に入ったイスラムの教えは「女性を尊重する点」だという。改宗すると女性として束縛を受ける印象を受けるが、どうも違うらしい。「男性が女性の外見によって惑わされることをイスラムの教えはちゃんと理解しています。女性が服の下に持っている魅力を分かっているのです。一言で言えば『セクシュアリティ』のことです。イスラムはその男女関係をリスペクトしていて、それに気づいたときイスラム教は私の心を捉え、改宗しようと思ったのです。今、私はヒジャーブを被ります。みんなに私がイスラム教徒だと知ってほしいからです。この姿が私は誇らしく幸福です。神が誰にでも宿るというのを示したいからです」(www.onislam.net)

 快楽主義や男性からの性的扱いにうんざりした彼女たちは、イスラム教が健全で秩序正しい生活を提供する基盤になると認識したのだろう。その規範は社会において男女間の適切な距離を要請するが、彼女たちは、それを束縛とはとらえないのだ。

 ここまでは若い女性のケースをみてきたが、若い男性の場合はどうなのだろうか。

 男性の改宗者はイスラム教に生き方の指針を見出す傾向がある。

 筆者が取材したところ、「イスラム教は人生に規律をもたらし、自分を評価する基準となる。どの行動が許され、どの行動が禁止されているかを明確にしてくれるのが魅力だ」といった声が聞かれた。

 イスラエルのバルイラン大学のチャイ・ケダル博士は次のように語る。

「機能不全もしくは離婚した家庭に育った人、アルコール依存症や麻薬患者の両親に育てられた人にとって、イスラム教が厳格であるほど、悩みや迷いに対して規範や行動の枠組を与えてくれたと感じるのです」

 とはいっても、一日五回の礼拝など、戒律を日々実践するのは大変ではないのか? 筆者のそんな疑問に改宗者の一人は「自分自身を強くし、自信になります。夜明けから日没まで継続的に神とコンタクトすることで、人生の道筋が明確になり、日々の労苦について助けを求めることができます」とあくまでストイックだった。

【次ページ】アメリカ軍兵士が改宗した理由

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