文藝春秋SPECIAL
ビジネスに効く! 世界の宗教Q&A

米国を動かす
キリスト教原理主義

米国人の約四割を占め、共和党の強力な支持基盤をなす人々の世界観

渡辺 靖 (慶応義塾大学環境情報学部教授) プロフィール

わたなべ やすし/1967年生まれ。97年、ハーバード大学で博士号を取得(文化人類学)。専門は文化人類学、文化政策論、アメリカ研究。著書に『アフター・アメリカ』(慶応義塾大学出版会)、『沈まぬアメリカ』(新潮社)など。

 近代主義や合理主義の最先端を行く国であるにもかかわらず、人工妊娠中絶や進化論を頑なに拒否し、世界を単純な善悪で塗り分けて理解してしまうキリスト教原理主義の影響力が強い米国。

 二〇一〇年には、キリスト教保守派が優勢となった南部テキサス州の教育委員会が、歴史カリキュラムに関する大幅な基準改定を議決した。新基準は「米独立革命に影響を与えた思想は啓蒙主義だけではない」との見地から、「独立革命に影響を与えた人物」のリストから米建国の父トマス・ジェファーソンを削除し、代わりにトマス・アクィナスやジャン・カルヴァンを加える判断を下した。ジェファーソンは、啓蒙思想(理性)を重視する立場から、キリスト教を絶対視せず、厳格な政教分離を支持したことで知られる。

 二〇一五年九月には南部ケンタッキー州で、自らのキリスト教信仰に反するとして、同性カップルへの婚姻証明書の発行を拒んだ女性郡書記官が収監される一幕があった(のちに釈放)。同年六月には米連邦最高裁が同性婚を事実上認める判決を出しているが、信仰を貫き通した彼女にはキリスト教保守派から称賛の声が相次いだ。

 二〇一六年秋の米大統領選でもリック・サントラム氏(元ペンシルベニア州選出の連邦上院議員)やマイク・ハッカビー氏(元アーカンソー州知事)、ベン・カーソン氏(元神経外科医)など、筋金入りのキリスト教保守派が立候補している。同派は共和党内の強力な支持基盤(「ベース」)の一つであり、彼らを無視して党内の予備選挙を勝ち抜くことは事実上、不可能である。

キリスト教原理主義とは

 キリスト教原理主義の特徴は、宗教的体験によって回心し、聖書の言葉をそのまま神からの言葉と信じ、個人救済を求めて福音活動に勤しむことにある。個人救済よりも社会正義を重視し、聖書を歴史的・批判的に解釈し、他の宗教にも割と肯定的なキリスト教主流派(穏健派、世俗派)とは対照的だ。

 今日、米国人の約四分の三がキリスト教徒、そのうち約半数がプロテスタント、約四分の一がカトリックである。プロテスタントはメソジスト派やユニテリアン派などさらに細かな宗派に分かれるが、それらは総じて主流派に属する。かたや、原理主義はそうした宗派にまたがって広がっており、しばしば「福音派」(エバンジェリカルズ)と称される。カトリックにはそうした宗派は存在しないが、それでも保守派と主流派は存在する。現在、キリスト教徒の約半数近くが原理主義的と言われている。つまり、大雑把に言えば、米国人の約四割近くがキリスト教保守派ということになる。

 当然ながら、民主党の地盤である東部や西海岸、都市部、高学歴層には少ないが、筆者が留学していたハーバード大学のようにそれらの典型であり「リベラル派の牙城」のような場所でも、キリスト教原理主義を信仰する学生の団体が存在している。

【次ページ】原理主義に惹かれる四つの要因

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