赤坂太郎 文藝春秋 掲載記事

松岡自殺 安倍家二代の恩讐

“疑惑の男”をなぜ? 参院選にも不吉な影が

参院選後の逮捕情報

「捜査当局から、松岡氏や関係者を取り調べたという事実もないし、これから取り調べを行う予定もないという発言があったと承知している。故人の名誉のために申し上げておきたい」

 安倍は同日夕、記者団に捜査当局のコメントにまで言及する異例の踏み込んだ発言をし、緑資源機構事件が真因という観測を懸命に打ち消そうとした。

 ただ、「松岡逮捕」は東京地検特捜部にとって悲願と言って過言でなかった。二○○二年に盟友の鈴木宗男を逮捕した時をはじめ、これまで何度も松岡を取り逃がしてきた。今年一月に特捜部長に就任した八木宏幸は「政官財に潜む不正は見逃さない」と当初から、松岡に狙いを定めていた。いくつかある「松岡案件」の中で、もっともスジがよかったのが、緑資源機構だった。

 公正取引委員会は昨年から調査を続けてきたが、当初は金額もさほど大きくないため告発する予定はなかった。それを八木率いる特捜部が突然、「刑事告発してくれ。こちらで引き取るから」と持ち掛けたため、公取は検察からの出向職員を担当につけ、刑事事件化を目指すことにした。松岡の逮捕に執念を燃やす特捜は「緑」の背後に松岡の姿を認めるや、すかさず食いついたのだ。

 容疑は緑資源機構関連の談合受注業者との贈収賄。特捜部は直告一、二班の全員を投入し、参院選後の逮捕を目指していた。自民党のある有力議員は「松岡は地元の同機構事業所のガサ入れにショックを受けていた」と打ち明けた。

 安倍はただちに環境相・若林正俊を農水相臨時代理に指名した。天皇、皇后両陛下が欧州訪問から帰国する三十日夕までは新閣僚の認証式ができないと分かったからだ。「これを参院選に向けて心機一転の機会にするしかない」。局面転換を狙うサプライズ人事か、農水行政の専門家の登用か。支持率に直結する後任の人選に安倍は全神経を集中した。一方、党内ではかねてくすぶってきた参院選前の内閣改造論が息を吹き返した。

「女は産む機械」発言の厚生労働相・柳澤伯夫や松岡を早く切り、内閣を刷新しろと言う元首相・森喜朗や元外相・町村信孝らの進言を安倍は退けてきた。

 自殺直前の二十六日には衆院予算委員長・金子一義が党岐阜県連の総務会で「松岡氏は捜査が地元に及んだという状況を受け、国会終了後に自ら辞任すべきだ」と公然と辞任要求を突き付けていた。結果的には、安倍が松岡を守ろうとする余り、かえって松岡を追い込んだ格好になり、守勢に回ったのは否めない。

【次ページ】 安倍親子との因縁

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2007年7月号
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