赤坂太郎 文藝春秋 掲載記事

安倍晋三 最後の三日間の真実

宿敵・福田に屈した若きプリンス。本当の病状と「心が折れた」瞬間

 厳しい残暑が続いた東京・永田町にも、ようやく秋の風が吹き始めた。九月二十五日夜、「中秋の名月」は首相官邸からもくっきりと見えた。だが、この日、第九十一代の首相に国会で指名され、官邸の主となった福田康夫に、そんな風情を感じる余裕などなかった。記者会見で自ら、「背水の陣内閣」と命名した福田だが、自分自身がいきなり瀬戸際に立たされていることを感じ取っていたに違いない。

 組閣は終わってみれば大半が再任と横滑り。挙党態勢をアピールするため、福田は自民党総裁選を争った前幹事長・麻生太郎に、前日から入閣を再三要請したが、すげなく断られた。代わって総裁選で麻生を支持した津島派の法相・鳩山邦夫と山崎派の経済産業相・甘利明を再任したが、代わり映えのしない内閣との印象をいっそう与える結果となった。

 この日午後、衆院本会議での首相指名選挙を終え、本会議場を出た福田は、国会内の廊下で麻生に出くわすと、すかさず、「(入閣を)考え直してくれないか。お願いしますよ」と麻生の耳元でささやいた。しかし、麻生は「ハッハッハ」と笑い返すだけだった。そして、福田が立ち去ると、こう言い放った。

「すれ違いざまに言うなよ。ハッハッハ」

 一体、誰が勝者だったのか――。前首相・安倍晋三の突然の辞任表明から二週間。前代未聞の政変劇の結末を象徴するような光景だった。

 だが、勝者は不明でも、確実に明らかになったことがある。それは、安倍が倒れたのを機に、小泉、安倍両政権下で表舞台から去った自民党の「過去の人々」が、それぞれの復活を賭けて、一斉に復讐戦に転じたことである。

 福田は前日二十四日の党役員人事でも、「過去の人々」に翻弄された。

「党の崖っぷちだから何でもする。でも、私の得意分野は選挙だ。総務会長は向いていない」

 午前十時過ぎ、自民党本部に福田から呼び出された古賀派会長の元幹事長・古賀誠は、福田が「総務会長に」と切り出すと、いとも簡単に拒否した。今や党総務会の司会者に過ぎない総務会長などとんでもない。望むのは候補者選定権を持つ選挙対策責任者。この権限を握れば実質的には幹事長以上に党内の影響力は強まる……前代未聞のごり押しだった。

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