文藝春秋SPECIAL
【中国 滅亡への法則】中国はどう見られているのか?

アジア発中国ホンネの評判
「支那人を叩き出せ!」

「資金力がある」、「ビジネスはビジネス、政治は政治」――中国の国力増進は様々な反応を引き起こしてきた。定点観測から見えてきた中国の世界戦略

安田 峰俊 (ノンフィクション作家) プロフィール

やすだ みねとし/1982年滋賀県生まれ。広島大学大学院文学研究科修士課程修了。当時の専攻は中国近現代史。中国を中心に各地で取材し、作品を発表している。『中国・電脳大国の嘘』(文藝春秋)、『境界の民』(KADOKAWA)など著書多数。

「遠きに交わりて近きを攻むるに如かず」

 紀元前3世紀、ある策士が秦の昭王(始皇帝の曾祖父)に献策した言葉だ。遠交近攻という四字熟語の語源である。現代の中国もまた、この格言に忠実な外交政策を採っているようだ。

 2011年、中国の重慶からドイツまでの直通貨物鉄道路線が開通し、中国とEUの経済が直結した。また、2015年10月には習近平がイギリスを訪問し、7兆円規模の経済協力を約束。一方、アフリカに対しても輸出入総額が約1700億ドル規模に達する経済関係を築き上げ、最重要国と目されるに至った。

 遠くの国々に対して、中国はひたすら笑顔を浮かべて札束と握手の手を差し出す。だが、近き相手に対してはどうか。

 以下、中国の遠交近攻策を象徴する各地の実態を、「遠」のイスラエル、「近」のベトナム、そして「内」なる別体制地域である香港と、その比較対象としての台湾を例に、それぞれ見ていくことにしよう。

イスラエルでの「爆買い」

「2年前の春から、中国人の観光客やビジネスマンが突然増えはじめました。エルサレムの嘆きの壁の付近を行き交う東洋人観光客は、かつて多かった日本人から中国人に完全に交替した印象です」

 イスラエル、テルアビブ市内の投資会社で対中ビジネスに携わるグロス・ジェイコブ氏(仮名、30歳)はそう話す。彼はアメリカの大学院で中国研究をおこない、その後に中国の国営資源関連会社で勤務した経験も持つ。イスラエルではかなり珍しい中国通だ。

 もともと、中以(中国とイスラエル)両国の関係は薄く、国交の樹立は日中間の関係よりも20年も遅い1992年1月である。かつて反米・反帝国主義の立場からアラブ諸国との関係を重視していた中国は、国交を結んだ後もイスラエルに対して距離を置く姿勢をとり続けた。

 だが、ここ数年で両国関係は急速に緊密化しつつある。イスラエルを訪れる中国人は前年比30%以上の増加を続け、2016年の訪以客は6.8万人に達する見込み。また、2010年に約50億ドルだった中以間の貿易総額も、昨年時点で約114億ドルまで膨らんだ。いまやイスラエルにとって、中国はアメリカに次ぐ2番目の貿易相手国となっている。

「イスラエル国内に、他国のような反中感情は少ない。中国とは歴史的なしがらみが薄く、領土を奪われるリスクもないですからね。近年増加した中国人たちは、『大量の札束を持って突然出現した東洋人の集団』として、現地で非常に歓迎されています」(グロス氏)

 両国の接近の背景にあるのは、東南アジアから中東・東欧までも取り込んだ経済圏の確立を目指す中国の外交政策「一帯一路」だ。同政策が構想段階にあった2014年4月8日、習近平は訪中したイスラエルのシモン・ペレス大統領(当時)と人民大会堂で会談。習は両国関係をお得意の「歴史問題」の文脈に落とし込み、下記のような表現で絆を強調した。

「中華民族とユダヤ民族は特に第二次大戦中、ともにファシズムと軍国主義に反対し、互いに助け合って深い友情を結んだのである」

 権力集中を進める習近平体制下の中国では、こうした指導者の言葉が進撃の大号令となる。イスラエルを訪問する中国人観光客やビジネスマンの「爆増加」は、この習・ペレス会談の直後に始まった。

 イスラエル側もラブコールに応えている。2015年3月、同国の大物外交官として知られるマタン駐北京大使は、「一帯一路」政策への好感を表明。直後の同月31日、イスラエルは中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に創設メンバー国としての参加を表明した。

 イスラエルのAIIB参加は、英仏独ら欧州の主要国の方針に同調した面も大きい。だが、日米がAIIBへの参加を見送るなか、アメリカの最重要同盟国・イスラエルが中国の「朋友圏(ポンヨウチュエン/友達の輪)」に加わったことは、やはり異例の事態だった。

【次ページ】

関連ワード

安田 峰俊

社会・生活の新着記事 一覧を見る RSS

登録はこちら

文藝春秋について 毎月10日発売 定価880円(税込)

※発売日・価格は変更の場合があります。