文藝春秋SPECIAL
ニッポン逆襲の組織論 大企業に何が起きているのか?

ソフトバンク 元参謀の見た孫正義「後継者」の条件

「後継者」と目されていたアローラの電撃退任、そして三兆円を投じての英国アーム社の買収……。ソフトバンクは今、何を始めようとしているのか? 孫正義の元参謀が読み解く

嶋 聡 (多摩大学客員教授・前ソフトバンク社長室長) プロフィール

しま さとし/1958年岐阜県生まれ。1996年より衆議院議員(新進党→民主党)を3期9年務める。2005年の落選を契機にソフトバンク社長室長に転身。8年間、同職を務めた。著書に『政治とケータイ』(朝日新書)、『孫正義の参謀』(東洋経済新報社)など。

 二〇一六年七月一八日、ソフトバンクは、イギリスの半導体設計大手アームホールディングスを三・三兆円で買収した。スマートフォンや自動車向けのCPU(中央処理装置)における中核技術を持つ会社である。二〇〇六年のボーダフォン、二〇一三年のスプリントと買収を重ねてきたソフトバンクにとっても「創業以来最大の投資」である。孫正義はこれを「たかが三兆円」と言い放ち、注目を浴びた。

 私は二〇〇五年から八年間ソフトバンクの社長室長を務め、孫正義氏の「参謀」と呼ばれた。元「参謀」から見ると、今回のアーム買収からは孫氏の「帝国」建国の野望を感じる。

 孫氏の夢は「三〇〇年続く企業を創(つく)る」であり、一時期、ローマ帝国、モンゴル帝国などがなぜあれだけ、世界に伸びたのかをよく研究していた。孫氏の視線は「世界」にある。

「ロックフェラーがなぜ、自動車の時代の世界を制覇したか分かるか? 世界の油田を押さえたからだ」

 スマホの通信用半導体で九割超のシェアを持つアームを買収したのは、ロックフェラーが自動車時代の源流、油田を押さえたのと同じである。

「アームは独自の基盤技術・プラットフォームを持っておりまして、この分野では世界NO.1」と孫氏は言う。孫氏がアームを買収したのは、アップルやグーグルが今のプラットフォームを握っているようにアームがIoT時代のプラットフォームを握ると考えたからだろう。なぜなら、プラットフォームこそ、徴税権、立法権を持つデジタル社会の「帝国」だからである。

 プラットフォームは国家のように「徴税権」をもつことができる。まさに「私的帝国」である。たとえば、アップルやグーグルなど独占している市場を持つ企業は、レベニューシェアと言って、売り上げの一定割合を配分するように要求することができる。これをIT業界ではアップル税、グーグル税などと呼んでいる。

 プラットフォームはまた「立法権」=ルールの制定権も持つ。グーグルのユーザーは、サービス規約はもとよりサイト設計のすみずみにいたるまで、大きな影響を受ける。

 英国、ケンブリッジの記者会見で孫氏は「創業以来、最もエキサイティングな日だ」と語った。孫氏の目には「IT産業の最上流」を押さえ、「三〇〇年続く帝国」への道筋が見えたのである。

【次ページ】目標はスティーブ・ジョブズ

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