文藝春秋SPECIAL
ニッポン逆襲の組織論 大企業に何が起きているのか?

ソフトバンク 元参謀の見た孫正義「後継者」の条件

「後継者」と目されていたアローラの電撃退任、そして三兆円を投じての英国アーム社の買収……。ソフトバンクは今、何を始めようとしているのか? 孫正義の元参謀が読み解く

嶋 聡 (多摩大学客員教授・前ソフトバンク社長室長) プロフィール

しま さとし/1958年岐阜県生まれ。1996年より衆議院議員(新進党→民主党)を3期9年務める。2005年の落選を契機にソフトバンク社長室長に転身。8年間、同職を務めた。著書に『政治とケータイ』(朝日新書)、『孫正義の参謀』(東洋経済新報社)など。

目標はスティーブ・ジョブズ

 孫氏は事業家と投資家という二つの面を持つ。低迷していたボーダフォンを二〇〇六年に買収、ソフトバンクとなり、V字回復させたのが事業家としての孫氏。アリババに見るように二〇〇〇年の二〇億円の投資が、二〇一四年の上場で八兆円の含み益となり、四〇〇〇倍になったというのが投資家としての孫氏である。

 ソフトバンクの組織構造は、ソフトバンクグループという持ち株会社のもとに、ソフトバンク(携帯電話事業、旧ソフトバンクモバイル)、ヤフー、スプリントなどの事業会社が連なっている形である。

 持ち株会社自体は、私の社長室長時代、二〇〇人もいなかった。持ち株会社の幹部が、事業会社の役員を兼務している。孫正義社長としては、この持ち株会社のスタッフを使い、全体を統括、経営する。買収などの投資案件を孫社長の号令一下、検討するのも持ち株会社のスタッフである。

 持ち株会社のメリットは、新規事業の立ち上げや他企業に対する買収がしやすく税金を節約できることと言われる。ソフトバンクはそのメリットをもっとも活かしている組織だといえる。そして、何よりも、事業家と投資家の両面を持つ、孫氏の力が十分に発揮できる組織形態なのである。ソフトバンクという組織のビジネスモデルは鉄道会社に似ている。鉄道会社は路線を引くのに大規模な投資を必要とする。携帯電話会社も同じで基地局というネットワークをつくる設備投資に数兆円もかかる。

 鉄道会社は運賃で、携帯電話会社は通話料で回収をしていく。キャッシュが安定して入るので、金融に対して信用力を持つ。そこで、鉄道会社が宅地開発などの不動産投資をするように、ソフトバンクは目が利くネット企業への投資をする。

 アリババなどネット企業への累計投資額(平均九・五年)は三八七七億円。これに対する累計リターン(収益額)はおよそ三〇倍の一一兆六六九九億円にのぼる。IRR(内部収益率)は四五%にもなった(数字はいずれも二〇一四年四~九月期)。「ソフトバンクは金の卵ではなく、金の卵を生むガチョウだ」と孫氏は言う。

 一方、事業家としての孫氏に自身は満足していないと思う。孫氏の目標とするのはスティーブ・ジョブズである。

「スティーブ・ジョブズのすごいところは三回もライフスタイルを変えたことだ。将来、ジョブズは、天才レオナルド・ダビンチとならび称されるだろう」と、孫氏は言う。

 三回とは、アップルコンピューターでコンピューターの概念を変え、iPodで音楽の楽しみ方を変え、iPhoneでスマホ革命を起こしたことだ。

 孫氏は二〇〇六年、ボーダフォンを買収し、見事にターンアラウンド(戦略的な収益改善)を成功させ、二〇一四年には、全体の売上高でNTTドコモを抜いた。ただ、その成功の理由が、スティーブ・ジョブズと直接交渉し、日本でのiPhone独占販売権を得たことにあることは、孫氏本人が一番よく知っている。孫氏は、この点に関してはイノベーションを起こした「企業家」ではなく、iPhoneを売る携帯電話会社のマネージャーにすぎない。そのことが孫氏には不満なのだ。後述するが、その不満が、アーム買収をさせたのだと思う。

【次ページ】アローラはなぜ退任したのか?

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