文藝春秋SPECIAL
ニッポン逆襲の組織論 大企業に何が起きているのか?

ソフトバンク 元参謀の見た孫正義「後継者」の条件

「後継者」と目されていたアローラの電撃退任、そして三兆円を投じての英国アーム社の買収……。ソフトバンクは今、何を始めようとしているのか? 孫正義の元参謀が読み解く

嶋 聡 (多摩大学客員教授・前ソフトバンク社長室長) プロフィール

しま さとし/1958年岐阜県生まれ。1996年より衆議院議員(新進党→民主党)を3期9年務める。2005年の落選を契機にソフトバンク社長室長に転身。8年間、同職を務めた。著書に『政治とケータイ』(朝日新書)、『孫正義の参謀』(東洋経済新報社)など。

アローラはなぜ退任したのか?

「三〇年に一度の大ぼらを吹かせて欲しい。二〇四〇年、時価総額二〇〇兆円、世界のトップ一〇企業になる」

 二〇一〇年、ソフトバンク創立三〇周年記念事業で、孫正義は大風呂敷な目標をぶち上げた。組織はリーダーの意志によって創られるべきである。このときのソフトバンクの時価総額は、二兆円から二兆五〇〇〇億円のあたりをうろついていた。時価総額一〇〇倍を三〇年でなすという大風呂敷である。

 孫氏は、後継者育成のために設立した「ソフトバンクアカデミア」で後継者の条件をはっきりと述べた。

「世界から募る。時価総額を一〇年で五倍に成長させることが後継者のノルマ。年率で一七%成長が要る。年率三%成長の会社でいいと思うような人は、少なくとも僕の後継者になってもらっては困る」

 二〇一四年、ソフトバンクの時価総額は約八兆円になっていた。五倍といえば、四〇兆円である。

 株価、為替は変動するが、二〇一六年六月末、一ドル一〇三円で換算すると、一位がアップルの五四兆円、二位がアルファベット(グーグル)の四九兆円、三位がマイクロソフトの四一兆円。つまり、時価総額四〇兆円ということは、世界のトップ三に近づくことを意味する。現に、孫氏は二〇一五年の株主総会で「世界のトップ一〇というのは目標が控えめすぎたかな」と発言し、会場を沸かせている。

 日本に目を転じると、トップのトヨタ自動車が約一六兆円である。日本には、時価総額四〇兆円の会社を経営した経験のある人間はいない。

 二〇一四年七月、孫正義氏は「後継者候補」として、インド人のニケシュ・アローラを一六五億円という破格の報酬で招いた。

 ニケシュ・アローラは世界第二位、時価総額四九兆円のグーグル幹部であった。ニケシュなら、時価総額を一〇年で五倍、四〇兆円にするという目標も現実的に捉えてくれるに違いない。そう考えて、孫氏はニケシュを後継者候補にしたのだと思う。そう決断した後の、ソフトバンクの組織としての人事はすごかった。二〇一五年六月の株主総会。ニケシュ・アローラが代表取締役副社長になった。創業以来の右腕だった宮内謙代表取締役副社長は平の取締役に。一年前に取締役になったばかりの後藤芳光、藤原和彦の二人の取締役は退任した。

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