文藝春秋SPECIAL
ニッポン逆襲の組織論 大企業に何が起きているのか?

ソフトバンク 元参謀の見た孫正義「後継者」の条件

「後継者」と目されていたアローラの電撃退任、そして三兆円を投じての英国アーム社の買収……。ソフトバンクは今、何を始めようとしているのか? 孫正義の元参謀が読み解く

嶋 聡 (多摩大学客員教授・前ソフトバンク社長室長) プロフィール

しま さとし/1958年岐阜県生まれ。1996年より衆議院議員(新進党→民主党)を3期9年務める。2005年の落選を契機にソフトバンク社長室長に転身。8年間、同職を務めた。著書に『政治とケータイ』(朝日新書)、『孫正義の参謀』(東洋経済新報社)など。

 この人事を進言したのはニケシュ・アローラと思われる。だが、これだけの人事を断行できるのはトップであり、オーナーである孫氏しかない。明らかに、ニケシュ・アローラが後継者としての手腕を発揮しやすくするための環境整備だと思われた。

 一個人の力量に頼っているだけの組織の命は短い。マキャベリは『ローマ史論』で「才能がいかに優れていようとその人の命が絶えれば、すべて終わりだからである」と冷厳に述べている。そして、「先の指導者の才能が後継者に受け継がれるというのは実に稀な例であるのだ」と現実的に警告を発している。ソフトバンクも例外ではなかった。

 二〇一六年六月二二日。ソフトバンク株主総会。

「来年に社長を辞めようかと思っていたが、(経営への)欲が出てきた」

 孫氏はこう語り、社長続投を決めた経緯を説明。後継者候補に指名したアローラ副社長の退任を発表した。「来年六〇歳の誕生日に、『明日からニケシュが社長になる』と発表し、皆を驚かせようと思ったが、AIをはじめ、情報革命のチャンスが広がり、もう少し続けたいと思うようになった」と語った。

 ニケシュ・アローラの一六五億円という高額な報酬は「時給五〇〇万円ですからね」とソフトバンク社内でも不満が蓄積した。ただ、優秀なCEO(最高経営責任者)の候補を、魅力的な報酬を提示して獲得することはグローバル市場ではよくあることだというのが私の認識である。

 シカゴ大学のスティーブン・N・カプラン教授は、「アメリカの上場企業CEOの報酬は自社の株価と連動して決定されている。当然、実績が悪いと、報酬額の引き下げ、あるいは解任というペナルティーが科される」としている。

 ニケシュが副社長として采配をふるった二〇一五年を見ると、NTTの株価が三六%上昇し、時価総額の増加額二兆五五〇〇億円は日本一だった。一方のソフトバンクは株価が一四%下降、時価総額は一兆三三〇〇億円減少し、減少額で不名誉な日本一となった。「一〇年で時価総額を五倍にする」どころの話ではない。

 孫氏が社長継続を決断したのは、ニケシュでは「時価総額二〇〇兆円」という目標を達成できないと判断したのも一つの要因でないかと思う。

【次ページ】後継者育成はまだ間に合う

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