文藝春秋SPECIAL
ニッポン逆襲の組織論 大企業に何が起きているのか?

ソフトバンク 元参謀の見た孫正義「後継者」の条件

「後継者」と目されていたアローラの電撃退任、そして三兆円を投じての英国アーム社の買収……。ソフトバンクは今、何を始めようとしているのか? 孫正義の元参謀が読み解く

嶋 聡 (多摩大学客員教授・前ソフトバンク社長室長) プロフィール

しま さとし/1958年岐阜県生まれ。1996年より衆議院議員(新進党→民主党)を3期9年務める。2005年の落選を契機にソフトバンク社長室長に転身。8年間、同職を務めた。著書に『政治とケータイ』(朝日新書)、『孫正義の参謀』(東洋経済新報社)など。

後継者育成はまだ間に合う

 副社長就任後、アローラは古参幹部との面接で通訳を通すと明らかに不機嫌になった。アローラは幹部に色々とアドバイスをした後、「やり方は君に任せる。ただ、君の人事権は私にある」と日本では抵抗感のある言葉を平気で言ったと言う。

 生え抜き幹部は鬱屈(うっくつ)し、組織の危機でもあった。「アローラが本当に孫正義社長の後継になるなんて誰も思っていませんよ」という話を複数の幹部から聞いていた。

 人間というものは誤りを正す力のないものに対して忠誠であることはできない。ニケシュに払った二年で二六五億円の年俸も孫氏にとってサンクコスト(回収できない費用)と考えたのだろう。孫氏が社長を継続することを含めて、ニケシュ退任はソフトバンクという組織にとっていい決断であったと思う。

「並外れた手腕と高徳を兼ね備えた国王が二代続けて出現することがあれば、大偉業が達成され、その名声は天にも届くほど高めることができる」とマキャベリは言う。

 孫正義の後継者育成がソフトバンクの重要課題であることはいうまでもない。「孫正義二・〇……後継者」を育成するソフトバンクアカデミアを創設すると孫社長が発表したのは、二〇一〇年。そのとき、私は「まだ、早いのではないですか。松下幸之助が松下政経塾を創ったのは八四歳のときですよ」と言った。

 孫氏はさすがに驚いたようだったが、はっきりと言った。

「八四歳のときだったのですか。でも、後継者を育成するのには一〇年かかります」

 孫氏は六〇代で引退を宣言している。孫氏は五九歳。まだ、一〇年ある。これから後継者育成に再びとりかかってもまだ間に合うのである。

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