文藝春秋SPECIAL
ニッポン逆襲の組織論 大企業に何が起きているのか?

ソフトバンク 元参謀の見た孫正義「後継者」の条件

「後継者」と目されていたアローラの電撃退任、そして三兆円を投じての英国アーム社の買収……。ソフトバンクは今、何を始めようとしているのか? 孫正義の元参謀が読み解く

嶋 聡 (多摩大学客員教授・前ソフトバンク社長室長) プロフィール

しま さとし/1958年岐阜県生まれ。1996年より衆議院議員(新進党→民主党)を3期9年務める。2005年の落選を契機にソフトバンク社長室長に転身。8年間、同職を務めた。著書に『政治とケータイ』(朝日新書)、『孫正義の参謀』(東洋経済新報社)など。

日本一の借金王

 アーム買収の資金、三・三兆円。ソフトバンクは借金の力を最大限活かしたレバレッジ(梃子の原理)経営でM&A(合併・買収)を重ね成長してきた。今回の巨額買収で有利子負債は約一二兆円と売上高の一・三倍に膨らむ。孫氏はおそらく日本一の借金王であろう。

 三〇〇年続く企業を創りたい孫氏は、ローマ帝国の歴史に興味がある。ローマ帝国と言えば、カエサルである。「何者にもまして、私が自分自身に課しているのは、自らの考えに忠実に生きることである。だから、他の人々もそうあって当然と思っている」というカエサルの言葉は孫氏の思想によく似ている。

 カエサルは借金王であった。「借金が少額のうちは債権者が強者で債務者は弱者だが、額が増大するやこの関係は逆転する」ことをカエサルは知っていた。

 孫氏もまた、借金をものともしていない。テレビ番組で「多額の有利子負債は大丈夫ですか」と聞かれ、「僕はケロッとしていますけど」と答えている。

 二〇〇六年のボーダフォン買収。二兆円の現金による買収というのは、日本の経済史上最大。欧米も含めて当時過去二番めに大きかった。手元に現金は無い。借り入れを起こして買収する。しかも、買収先の資産を担保に入れて、負債を調達するLBO(レバレッジバイアウト)方式をとった。

 当時、ボーダフォンジャパンは減益が加速している状態だった。普通に考えたら狂気の沙汰である。しかし、孫氏はこのターンアラウンド(戦略的な収益改善)を成功させた。

 この成功体験が二〇一三年のスプリント買収によるアメリカ進出につながった。ところが、これはいまのところいい成果をあげていない。

 スプリント買収に一兆八〇〇〇億円(二一六億ドル)の資金を投入し、これを子会社化した。このとき、ソフトバンクはこれを長期借入金による資金調達で賄(まかな)った。金利は一%台という見事な調達であった。借金王の面目躍如である。

 しかし、同時にスプリントが有していた有利子負債(約三三〇億ドル)を引き受けたことで、一挙にグループ全体の有利子負債が膨らんだ。いまや、ソフトバンクの有利子負債が一二兆円にもなった主要因である。

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