文藝春秋SPECIAL
ニッポン逆襲の組織論 大企業に何が起きているのか?

ソフトバンク 元参謀の見た孫正義「後継者」の条件

「後継者」と目されていたアローラの電撃退任、そして三兆円を投じての英国アーム社の買収……。ソフトバンクは今、何を始めようとしているのか? 孫正義の元参謀が読み解く

嶋 聡 (多摩大学客員教授・前ソフトバンク社長室長) プロフィール

しま さとし/1958年岐阜県生まれ。1996年より衆議院議員(新進党→民主党)を3期9年務める。2005年の落選を契機にソフトバンク社長室長に転身。8年間、同職を務めた。著書に『政治とケータイ』(朝日新書)、『孫正義の参謀』(東洋経済新報社)など。

 アーム買収の場合は様子が違っていた。「カネは天から降ってくる」と孫氏はよく言っていたが巨額の資金が集まってきていた。ゲーム大手スーパーセルの株式を中国IT大手の騰訊控股(テンセント)に約七七〇〇億円で売却。総額二〇〇〇億円規模で買ったとみられるので五七〇〇億円の利益。中国のアリババ集団の一部株売却で八七〇〇億円を得た。そのほかにもガンホーなどを売り二兆円近い資金が手元にあった。アーム買収資金の三・三兆円まで後一兆円である。

 ソフトバンクがアーム買収を発表したのは七月一八日。その五日前からメインバンク、みずほフィナンシャルグループでは、極秘の社内会議と取締役会が相次ぎ開催されていた。テーマはソフトバンクへの一兆円の融資だ。

 一兆円である。通常なら手続きに時間がかかるが、スムーズに融資が実現した。みずほフィナンシャルグループは英ボーダフォン日本法人の買収、北米スプリントの買収でも協調融資団に名前を連ねた。つき合いの深さと「借金が少額のうちは債権者が強者で債務者は弱者だが、額が増大するやこの関係は逆転する」を思わせた。

「レバレッジ経営」は「一時的な格付け悪化」はいとわない。借金をためらい有望な投資先を逃す機会損失こそが最大の敵と考えている。

 ソフトバンクの社外役員を務めるファーストリテイリングの柳井正社長は、一〇〇億円ほどの投資には徹底的に数字を精査する。しかし、ボーダフォンやスプリントのような巨額な投資のときは「買えないリスクを考えるべきだ」として後押しをする。孫氏によると「勝負時を知っている」という。

 ソフトバンクは借金を重ねて成長してきた組織である。孫氏はあいかわらず強気であるが、実は私は心配している。

 私が社長室長時代、ソフトバンクアカデミアの講義で「僕はあと四年ちょっとで無借金経営にする。その後はずっと無借金でいく」と宣言していた。

 もちろん、「大きな勝負どころがあれば別だ」とつけくわえることを忘れなかった。それが、スプリント買収であった。

 結果として、スプリント買収は苦戦しており、有利子負債は一二兆円にもなった。二〇一六年三月期の利払いは約四四〇〇億円と上場する全事業会社の二割にあたる。金融市場の緩和状態、低金利状態が続くのを祈るばかりである。

【次ページ】アーム買収の狙い

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