文藝春秋SPECIAL
「横の関係」が組織を変える

アドラーの教え
サラリーマンよ「嫌われる勇気」を持て

「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言したアドラーに職場の悩みをぶつけたら……? アドラー心理学の伝道師に解決法を聞いた

岸見 一郎 (哲学者) プロフィール

きしみ いちろう/1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。哲学と並行して、アドラー心理学を研究。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(共著、ともにダイヤモンド社)など。

『嫌われる勇気』

 フロイト、ユングとともに「心理学三大巨頭」と言われながら、アルフレッド・アドラーは、日本ではあまり知られていなかった。しかし、長年、アドラー心理学の研究をしてきた岸見一郎さんの百万部を超えるベストセラー『嫌われる勇気』(古賀史健氏との共著、ダイヤモンド社)が、アドラーへの関心を一躍高めた。

 アドラーは、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と言い切る。職場の悩みのほとんどは「対人関係」に発する。そこで職場の悩みを岸見一郎さんに投げかけ、アドラー心理学の立場から答えていただくことにした。(編集部)

貢献感なき仕事には意味がない

Q. お金が得られればいい、と割り切って、金融機関に就職したのですが、借金の取り立ての仕事を任され、この仕事は社会の役に立っているのだろうか、と「やりがい」や「社会的意義」を感じられなくなってしまいました。他の仕事を探した方がいいのか、慣れるまで待った方がいいのか、迷っています。(20代、男)

A. 「やりがい」や「社会的意義」のことをアドラー心理学では「貢献感」と言いますが、それがない仕事には意味がありません。「貢献」というと、社会的に認められた、いわゆる「立派な」仕事に就かなければできないと思われるかもしれませんが、それは誤解です。職業に貴賤はありません。「誰かの役に立っている」と自分が思えれば、それが「貢献感」です。

 あなたの問題の核心は、その貢献感を感じられなくなっていることです。貢献感を持てなければ、自分に価値を感じられなくなり、悩みの源泉であるけれども、幸せの源泉でもある「対人関係」に入っていく「勇気」を持てず、幸せになることはできません。ですから、貢献感が感じられない仕事に「慣れる」ように努めることは、最悪の選択です。自分を欺(あざむ)いて、今の仕事を続ければ、安全な人生を送れるかもしれませんが、その代わりに幸せも得られない無味乾燥な人生を送ることになるでしょう。

 慣れてしまう前にすべきことは、「取り立て」とネガティブに書かれていますが、自分がやっている仕事が本当に誰かのために役に立っていないのか、真剣に考え直してみることです。自分だけで答えが出なければ、そのことを上司に問い質(ただ)してみてもいいでしょう。鵜呑(うの)みにしてはいけないのは、「会社のためになっている」という上司の答えです。会社のためになっていても、社会のためになっていない可能性があるからです。「会社のためになっている」という「貢献感」を得たいがために人間は、会社の外から見れば、よくないとわかっていること、時には法に触れることさえもやってしまいます。有名企業であっても、不正やその隠蔽(いんぺい)が後を絶たないのは、そのためでしょう。ですから、あなたのような疑問を持つことは大切です。会社の外にある共同体にとっても、自分の仕事は有益で意義があるのか。そのような視点から、自分の仕事を見つめ直すのはとてもいいことです。「困難にぶつかったときは、より大きな共同体の声を聴け」というのが、アドラー心理学の原則です。

 もし、そのような努力をした上で、この仕事をいくら続けても自分は貢献感を得られないだろう、と思うのであれば、他の仕事を探すべきです。

 しかし、あなたが今のままで、他の仕事を探しても、また同じ問題にぶつかるのではないかと思わされた言葉がありました。それは「お金が得られればいい、と割り切って」というくだりです。生きるためにお金は必要です。しかし、仕事から得られる貢献感を無視して、得られるお金だけを基準に仕事を探せば、あなたはまた同じ悩みを持つことになるでしょう。なぜ働くのかと問われたら、私は「よりよく生きるために働く」と答えます。「よりよく生きる」とは、幸福に生きることです。そう考えると、幸福になれない仕事には意味がありません。ですから、仕事を探すときには、この仕事をして、果して自分は幸せになれるだろうか、と自分に問いかけてみてください。

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