赤坂太郎 文藝春秋 掲載記事

麻生・福田「政権禅譲の密約」全真相

解散・総選挙を断行するのは一体誰か? 同床異夢の二人三脚が始まった――

 北京五輪の熱狂も去り、永田町はいよいよ政局秋の陣を迎えた。臨時国会前に噴出した農水相・太田誠一の事務所費問題が政権の足を引っ張り、衆院の解散圧力が強まる中で、首相・福田康夫と幹事長・麻生太郎の二人三脚でどこまで踏ん張れるか。自民党選対が行う選挙情勢調査は党内で数部しか報告書が作られず、厳秘扱いだが、「小選挙区で北海道は全滅の可能性あり」、「東京では石原伸晃しか上がらない」、「民主党の候補者が決まっていない選挙区で自民党の現職議員が劣勢」。次々と伝わる情報は、否が応でも党内の総選挙への恐怖心を煽る。

 そもそも誰を担いで戦うのか――。

 様々な思惑が入り乱れる中、いまだに謎に包まれているのが、先の内閣改造の際に、福田と麻生との間で取り交わされたという政権禅譲の「密約」である。

 これについて記者団に聞かれた福田は秘書官の制止を振り切ってこう言った。「公になったものを密約とは言わないんですよ」。実は、この言葉は麻生に向けられたものだという。

 いったい福田と麻生の間に何があったのか。今一度時計の針を戻してみよう。

 八月一日午前十一時、首相公邸。麻生が応接室に通されると、時をおかずに福田が執務室から現れた。福田は両手を握って「自民党結党以来の危機だ」と訴え、「麻生さんの協力次第なんです」と正式に幹事長就任を要請した。麻生が「昨日の電話でも言いましたが、総理が総選挙をご自身で断行されたいなら、その幹事長は私でなく……」と言い掛けると、福田はいやいやと顔の前で手を振り、「それはもういいでしょう。当面の政策課題に取り組むことが、私に課せられた使命ですから。総選挙なんて考えたこともないんですから」と制した。麻生は「党人として総裁の要請から逃げるわけにはいかない。ただし思ったことはやらせてもらいますよ。とくに景気対策は喫緊の課題だ」と幹事長受諾を了承した。

 話は他の執行部人事にも及んだ。福田は「選対委員長・古賀(誠)、総務会長・二階(俊博)は留任させたいのですが、政調会長に腹案はおありですか」と問うた。「人事全体の理念から言えば、例えば与謝野馨さんでしょうね」と麻生が答えると、福田は「実は与謝野さんには閣内で大事なポストを考えています。経済財政担当相です」と打ち明けた。福田が元幹事長・中川秀直と与謝野との間で繰り広げられてきた「上げ潮派vs財政規律派」の争いに決着をつけた瞬間だった。

「それで閣僚名簿ですが……」と福田がリストを見せようとしたのを、「いや、もう、それは総理の専権事項だから、組閣本部で……」と麻生はさえぎった。必要以上に深入りすれば「中川外し」に加担したと、後に非難されることになる。

 別れ際、麻生は冗談交じりに軽口を叩いた。「ところでいつまで総理大臣を続けられるおつもりです?」。福田は「それは、任期満了でしょうかね。無理ですかな……ムフフ」と笑い、麻生も「アハハ」と豪快に笑い返した。

【次ページ】 必死に口説く森

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