赤坂太郎 文藝春秋 掲載記事

麻生官邸を牛耳るソフト帽の怪人

「チンピラ」太郎vs.「信用できない」一郎。想定外の戦いに迷参謀登場――

 薄ら笑いを浮かべて着席した首相・麻生太郎。背筋を伸ばして対峙する民主党代表・小沢一郎。十一月二十八日、国会の党首討論で両雄は初対決した。

 小沢「〇八年度第二次補正予算案をこの臨時国会に出さないのは本当に筋道が通らない。国民への背信行為だ」

 麻生「いや、まず金融機能強化法改正が通るかどうかで補正の中身も変わってくる。成立にご協力をお願いしたい」

 小沢「補正先送りなら初心に帰ることだ。衆院解散・総選挙で審判を仰げばいい。十二月に選挙できるじゃないか」

 麻生「閣僚と民主党の『次の内閣』で政党間協議をやりたい。〇九年度予算案を巡っても建設的に話し合えないか」

 麻生は低姿勢に徹した。総裁選に圧勝、小沢との衆院選対決に「勝って初めて天命を果たしたことになる」と見得を切ったのは遠い過去だ。年内選挙は支持率伸び悩みと「百年に一度」の金融危機で断念。支持率は既に三○%を割る調査も出始め、解散は封印するしかなかった。

 一月上旬に早期召集の通常国会はまず追加経済対策を盛り込んだ二次補正、続いて〇九年度予算案の審議が待つ。本予算と歳入関連法案の成立まで解散を打つ余地はない。通せずに解散なら「追い込まれ解散」になりかねない。民主党が審議をとことん引き延ばした〇八年、歳入関連法案の成立は四月三十日までずれこんだ。〇九年も持久戦の覚悟がいる。

 六―七月は公明党・創価学会が衆院選以上に重視する東京都議会議員選挙が控える。衆院選とのダブル選を避ければ、九月十日の衆院の任期満了はもう目の前だ。日程にすき間がなく、景気も支持率も右肩下がりでは、解散戦略と言ってももはや出たとこ勝負でしかない。

 首相の座にしがみつき、耐え抜いた末の任期満了選挙説も強まるが、それすら容易ではない。九月三十日に麻生の党総裁任期は切れる。支持率が反転し、党内が麻生を「選挙の顔」と認めれば別だが、ジリ貧なら「顔」を代えよう、と総裁選前倒し論が浮上するのは間違いない。

 解散先送りでは党内がガタつく、と仕掛けたのは小沢だった。十一月十七日、突然麻生に党首会談を要求。事務担当の官房副長官・漆間巌らはやめた方がいいと進言したが、麻生は首相官邸で「申し入れを聞き置く」体裁を取って受けた。

「常識的な範囲で結論は出す。党首として政治家として、責任を取る」

 小沢は唐突に審議協力をちらつかせると、「あんたが国民に約束したんだろ」と二次補正の臨時国会提出を迫った。麻生は腰を引いた。案の定、小沢は十八日から一転、参院でインド洋自衛隊給油法の延長や金融機能強化法の改正をサボタージュする強硬戦術で麻生揺さぶりに出る。軸足は倒閣に移しつつあった。解散を先送りし、二次補正も急がない麻生の矛盾を浮き彫りにする舞台装置として党首会談をしっかり利用したのである。

 十九日夜。麻生と幹事長・細田博之、国会対策委員長・大島理森は二次補正は〇九年度予算案と一体で通常国会に出す方針で腹を合わせた。銀行への資本注入を復活する金融機能強化法改正案を通すには衆院再議決をにらんで越年延長も覚悟せざるを得ないが、年末は予算編成に専念。通常国会の前に局面転換の内閣改造が可能なすき間を少しでも空ける。政権維持を優先する守りの戦略だった。

 前財務相・伊吹文明が同じく京都府選出の議員に漏らした見立ては深刻だ。

「麻生が来夏まで持てば、総裁選で『衆院選の顔』を選び直す余地もある。しかし、またしても早々と首相の座を投げ出せば、もう自民党政権は終わりだ」

 安倍晋三、福田康夫に続く政権投げ出しと言う異常事態になれば、後継首相を党内のたらい回しで選べるかどうかも覚束ない下野の瀬戸際だ。そんな非常事態の最中に、クーデターまがいの行動を起こしたのが、九月の総裁選で元防衛相・小池百合子や幹事長代理・石原伸晃を担いだ自称「改革派」の面々だ。元官房長官・塩崎恭久が「追加経済対策の実行で国会から逃げてはいけない」と噛みつけば、元行革担当相・渡辺喜美も「政局より政策だと解散を先送りして、政策まで先送りしちゃうの? そんなバカないでしょ」と挑発。彼ら中堅・若手有志二十四人は、官房長官・河村建夫に二次補正の臨時国会提出を迫る連判状を突きつけた。だが、所詮、彼らも確たるポスト麻生候補や政局カレンダーも持たずに騒いでいるだけで、それこそが自民党の政権担当能力喪失を物語っていた。

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2009年 新年特別号
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