特集 文藝春秋 掲載記事
この国とはこう付き合え

【米国】トランプの駆け引きに惑わされるな

神谷秀樹 (投資銀行家、在アメリカ)

二十五年前のトランプは「やっかいな人」だった

神谷秀樹氏

 ドナルド・トランプがこれからどのような政治をするのか。これは日本にとって極めて重要な問題だが、現時点では、彼の個別具体的な政策がどうなるかは予想できない。

 それはアメリカ人も不安に思っていることで、反トランプの声は鳴りやまない。私のオフィスから二ブロックしか離れていないトランプタワーの周りは、今日も商用車の乗り入れ規制が続いている。私がアメリカに移住したのは一九八四年で、ニューヨークを拠点に投資銀行業界で働いてきたが、新大統領が誕生したというのにそのお祝いの集会が開かれることなく、反対派のデモが全国で広がる光景はかつて見たことがない状況だ。

 もしトランプが公約通りに輸入品に対して高い関税を課し、移民受入れを減らし、大幅な減税を行い、その一方で一兆ドルに上るインフラ投資をしながら軍事支出も増やすならば、長期金利は高騰し、債券投資家は空前の大損をするだろう(当選後二週間だけで長期金利が〇・五七%上昇し、債券投資家は一・八兆ドル損をした)。

 こうした政策が現実味を帯びれば国際金融市場全体を揺るがすことは間違いなく、日銀の黒田東彦総裁が九月に打ち出したイールドカーブを意のままに操作し緩和の度合いを調整するという金融政策など、もともと実現性の危ういものだったが、たちまち絵空事と化してしまう。

 なぜトランプの経済政策の予測が難しいかと言えば、例えば、政策の目玉として掲げられるインフラ投資も、政府に財源のあてはなく、それゆえ借金でまかなうとなると共和党の基本的な考えとはまるで逆になってしまうためだ。党内の抵抗は容易に予想される。

 アメリカがこれまで行った中東戦争は間違いばかりだと公言し、選挙期間中には「過去六兆ドルを費やした中東での戦争で勝った例しがない。同じ金額を国内のインフラ整備に使っていたら、今頃米国のインフラはピカピカだった」と痛烈に批判した。戦争を止めてインフラに回してくれるなら結構な話だが、他方で「軍事費を増大し、軍を強化する」とも言っているから、実際どうなるか見当がつかないのである。

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