旬選ジャーナル 文藝春秋 掲載記事

まるで見世物小屋のASKA逮捕 テレビ局は常軌を逸していた

12月3日、NEWSポストセブン(筆者=オバタカズユキ)

古市 憲寿 (社会学者) プロフィール

ふるいち のりとし/1985年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程に在籍。慶応義塾大学SFC研究所上席所員。著書に『誰も戦争を教えてくれなかった』など。

 二〇一六年は有名人のドラッグ使用を伝える報道がメディアを賑わせた。その報道のあり方自体に一石を投じたのが、ライターであるオバタカズユキのコラムだ。オバタは歌手のASKAの二回目の逮捕に関するテレビ報道は「完全に常軌を逸していた」と評する。

 十一月二十八日、NHKと共同通信が「ASKA逮捕へ」という速報を流した後、民放各局がニュース速報に切り替え「ASKA祭り状態」になった。その間、ASKAはリアルタイムでブログを更新、「ミヤネ屋」の放送内容にクレームをつけたことなどもあり報道は過熱。結局、捜査員がASKA宅に入るまでの約六時間、「見世物小屋」のような状態は続いた。

 オバタは、「覚せい剤やめますか。それとも、人間やめますか」という有名な一九八〇年代の公共広告を参照する。現代の人権意識から見れば大いに問題のあるコピーだ。だって「覚せい剤」をしている人は「人間」ではない、というのだから。そんなわけはない。一部の権利が制限されることはあっても、法治国家の日本では、犯罪者にも当然に人権がある。

 だが、オバタの見立てでは、日本人のドラッグに関する認識がこのCMから更新されていないのではないか、という。確かに、あの日のASKAは人間扱いされていなかった。自宅へ帰るまでのタクシー内の映像がテレビ番組に流出し、大挙した報道陣がASKAをもみくちゃにする中で、愛車のベンツのエンブレムはもぎ取られ、記者たちに踏み付けられた。

 現在の日本の法律では、確かにドラッグの使用は違法だ。しかし同じく、公益性のないプライバシー侵害や器物破損も違法である。果たして法を犯してまで報道されるほど、ASKAの逮捕は公益性のあるニュースだったのだろうか。

 世界では大麻を合法化する動きがある。多くの先進国は薬物を規制の対象としてきたが、結果として大量のお金が裏社会に流れている。だったら、国家のもとで安全に大麻を管理したほうが合理的ではないか、というのだ。

 アメリカのコロラド州デンバーでは、大麻体験ツアーが人気だという。大麻送迎車、大麻料理教室、大麻スキー、大麻ホテルなど、とにかく大麻観光が盛んで、地方創生に大いに役立っているという。作家の橘玲は、日本でも「カジノ特区」ならぬ「大麻特区」を提案するくらいだ(『「リベラル」がうさんくさいのには理由がある』集英社)。

 そもそも、薬物をいくら禁止したところで、アルコールやギャンブルなど他に依存症になり得る嗜好品は社会に溢れている。かつては覚せい剤であるヒロポンが気軽に入手できたことからもわかるように、どの嗜好品が合法か違法かは、時代や文化によって変わる。

 もちろん、依存症は患者の生活を壊すという意味で、好ましいものではない。だとすれば、今すぐにするべきはドラッグに関わった人間を「見世物」として吊し上げることではなく、きちんと彼らを治療に導くことではないだろうか。

 だが、ここでも日本のドラッグ観がネックになる。ダルクなど民間の薬物依存症リハビリ施設の立ち上げに際し、近隣住民による反対運動が起こるというのだ。アルコール依存症治療や、禁煙外来を持つ病院がそこまで反感を持たれることは少ないだろう。

 メディアは薬物問題に限らず「見世物」を探し続ける。吊し上げは続くだろう。大衆がそれを求める以上、この文化は中々変わらない。オバタの記事が書かれた後、ASKAは不起訴処分となった。見世物小屋に反省はあったのだろうか。

この記事の掲載号

2017年2月号
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大型企画 大女優が語る昭和の映画
2017年1月10日 発売 / 定価880円(税込)
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