著者は語る 文藝春秋 掲載記事

新本格ブームの功労者が語る自らの一代記

『ぼくのミステリ・クロニクル』 (戸川安宣 著/空犬太郎 編)

佐久間 文子 プロフィール

さくま あやこ/1964年、大阪府生まれ。1986年、朝日新聞社に入社。文化部、「AERA」、「週刊朝日」などで主に文芸や出版についての記事を執筆。2009年から2011年まで書評欄の編集長を務める。2011年に退社し、フリーライターとなる。

国書刊行会 2700円+税

「読む人」から「つくる人」になり「売る人」にもなった編集者の一代記だ。

 戸川さんは東京創元社で「日本探偵小説全集」などの企画を手がけた、新本格ブームの陰の功労者である。同社の会長時代には東京・吉祥寺のミステリ専門書店の店員として働いたこともある。

 ミステリ好きの少年時代、編集者としての仕事、書店員時代の三部に分けて、ライターで編集者でもある空犬太郎さんが聞き書きしてまとめた。

 読んでまず驚くのが、本を含めたさまざまな紙資料を残していることだ。

「捨てられなかっただけなんです。おふくろが、小学生時代のテストからみんな残していたので。ヤドカリみたいに背負っているものがたくさんあるから、引っ越しするときもまず本を置く場所を考え、重さに耐えるように大工さんに相談するところから始めました」

 小学生のときの感想文が載った区の文集や自分で装丁した「読書ノート」、初めて買った創元推理文庫(『幽霊屋敷』)なども本に紹介されている。

 立教大学ではミステリ・クラブを創設した戸川さんの東京創元社入社は一九七〇年。二度の倒産を経たあとで、同社が総合出版社から翻訳ミステリへと重心を移す時期に重なり、内側から見た変貌のようすが興味深い。

(写真は戸川氏)

「社員全員で三十人の小さい出版社でしたから、社長も四六時中、目の前にいて、いろんな話をよく聞きましたね。著者にも編集者にも、かなり個性的な人間がそろった時代でした」

 都筑道夫、鮎川哲也らとの交流も語られる。とりわけ印象深いのが、戸川さんが企画した「鮎川哲也と十三の謎」。北村薫、有栖川有栖、宮部みゆきらの単行本デビューとなった伝説のシリーズだ。

「既成作家にほとんどつてがなかったですから、とにかく知っている人で書けそうな人に書いてもらおうと。講談社の『書下し長篇探偵小説全集』は十三巻目が一般公募枠で、それに鮎川さんが当選したわけですが、うちは十三巻全部が公募枠とほぼ同列(笑)。営業も『本当に売れるのか?』と心配しました」

 営業を悩ます思い切った試みだからこそ、新しい才能は生まれたのだろう。

 書店員時代は、たくさんの作家が戸川さんのいる店を訪れ、ファンと交流する時間を持った。

「お客さんも作家も喜んでくれた。こういう機会をつくるお手伝いを、これからもできるといいですね」

この記事の掲載号

2017年2月号
2017年2月号
大型企画 大女優が語る昭和の映画
2017年1月10日 発売 / 定価880円(税込)
関連ワード

戸川 安宣空犬 太郎佐久間 文子

読書の新着記事 一覧を見る RSS

登録はこちら

文藝春秋について 毎月10日発売 定価880円(税込)

※発売日・価格は変更の場合があります。