ビジネス書観測 文藝春秋 掲載記事

消費社会の全貌と転換の歴史を示した一冊

『第四の消費 つながりを生み出す社会へ』 (三浦展 著)

速水 健朗 プロフィール

はやみず けんろう/1973年、石川県生まれ。コンピューター誌編集者を経て、2001年よりフリーランスの編集者、ライターとして活動中。NHK総合『NEWS WEB 24』ネットナビゲーター。手がけるジャンルは、メディア、都市、消費社会論など。主な著書に『ラーメンと愛国』『自分探しが止まらない』がある。

朝日新書 903円(税込)

 本書では、1984年刊行の渡辺和博『金魂巻』が取り上げられる。『金魂巻』は、職業を取り上げ、それを「○金」(まるきん)と「○ビ」(まるび)に分ける。例えば、同じカメラマンでも「○金」だと、手ぶらで颯爽とスタジオに現れ、仕事が終わるとモデルを連れて飲みに行くが、「○ビ」のカメラマンは、撮影後、重い機材を下げてタンメンとギョーザを食べにいくといった具合である。一億総中流と思われていた日本に、いち早く階層と消費の関係を示したのが『金魂巻』だったと著者は指摘する。

 だが、99年に『週刊SPA!』誌上に復活した『金魂巻』は、話題にならなかった。「金持ちほど派手、貧乏人ほど地味」という80年代的な消費社会の在り方が、通用しなくなっていたのだ。女子高生がシャネルを身につけ始めた90年代末には「金持ちほど地味、というかシンプルでカジュアル、貧乏人ほど派手でフォーマル」が当たり前になったのである。

 1984年と1999年の間に、日本は消費社会の転換点を迎えたのだ。本書は、現代を“消費社会の第四段階”と位置づけ、その全貌と転換の歴史を示す。

「シェア」「スペンドシフト」「つながり志向」「絆消費」など、リーマンショック、3・11以降を反映した消費の変化を巡るキーワードは数多く生まれている。

 かつて人々は、“隣の家の人も持ってるから”“生活レベル向上”“自分らしさ”などをきっかけに消費を行ってきた。だが今は“環境保全への貢献”“人とつながる”など、新しい行動原理の下で消費を行うようになってきている。

「ファスト風土」に代表されるキーワードを量産する著者の手のひらに、またもや踊らされるというのは悔しくもあるが、本書の「第四の消費」は、消費の在り方の世界的な変化と日本での変化の両方を見事にすくい取ったキーワードである。

 本書は日本の消費社会の段階を四分割する。消費は、都市化の段階変化と結びついてきたというのが著者の見立てだ。

 戦前のモボモガなどの都市的流行が発生し始めた時期が第一段階。戦後の高度成長期、つまり農村から都市への人口移動が起きた時期が第二段階。団地に住むニューファミリーの時代から単身ワンルームへと都市生活像が変化した80年代を中心とした時代が第三段階。そして、地方・地元志向の現代が第四段階である。

 マーケッター的な視点から消費・風俗にまつわる扇動的な言葉を生み出す存在として捉えられる三浦だが、その本質は都市や家族像の変化という、社会の背景を踏まえた消費社会の分析の部分にある。『「家族」と「幸福」の戦後史』やベストセラー『下流社会』の中の「第四山の手論」は優れた都市論だった。本書は、その本領を発揮した集大成的な一冊だ。

この記事の掲載号

2012年7月号
2012年7月号
徹底追及 平成政治24年 亡国の「戦犯」
2012年6月8日 発売 / 定価840円(税込)
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