今月買った本 文藝春秋 掲載記事

アメリカを読む

『ティーパーティ運動の研究』『世界の99%を貧困にする経済』『見えないアメリカ』ほか

池上 彰 プロフィール

いけがみ あきら/1950年生まれ。慶応義塾大学を卒業後、NHKに入局。報道記者として活躍。2005年に退局し、フリーに。ニュースをわかりやすく解説し、テレビや雑誌で人気を博す。『伝える力』『宗教がわかれば世界が見える』など著書多数。

 アメリカ大統領選挙取材のため、アメリカに長期滞在しています。と言っても一か月。これを長期滞在と表現してしまうところに、私の余裕のない生活ぶりが露呈してしまいますが。

 この際、アメリカについて改めて勉強しようと、関係の書籍を大量に買い込みました。

 今年八月末に開かれた共和党大会も取材して感じたことは、アメリカの保守派が「小さな政府」を志向し、オバマ大統領が実現に努力した医療保険制度を嫌悪していることです。日本の国民皆保険のありがたさを実感している私には理解を超える思考様式ですが、これがアメリカなのでしょう。

 そんなアメリカ保守派の運動を代表するのが「ティーパーティー運動」です。アメリカ独立の発端になったボストン・ティーパーティーから名前をとった草の根の増税反対運動です。どんな人たちが運動の担い手になっているのか。『ティーパーティ運動の研究』は、専門家たちの論集です。

 ここには、ティーパーティー運動支持者の三〇%が、オバマ大統領が生まれたのは「アメリカ以外の国」だと思っているという衝撃的なデータが出ています。アメリカで生まれていないと、そもそも大統領にはなれないのに。もっとも、この運動を支持していない人たちでも二〇%はオバマの生誕地をアメリカ以外だと考えているそうですから、どっちもどっちかもしれません。

 アメリカは「貧しい九九%と金持ちの一%」に分断されたと過去の共和党政治を批判する運動も起きています。『世界の99%を貧困にする経済』は、その構造を分析しています。

「一%」が存在してこそ経済が活性化すると主張する保守と、「九九%」こそが大切だと怒るリベラル。アメリカの分裂は深刻です。その様子を活写しているのが『見えないアメリカ』と、『99%対1% アメリカ格差ウォーズ』の二冊です。前著は、アメリカの政治家にとっての共通の敵は、記号としてのワシントン政治であることが、よくわかります。後者の著者である町山智浩さんのアメリカ報告は抱腹絶倒。でも、読んでいるうちにアメリカが怖くなってきます。

 こうしたアメリカを、思想の面から分析するのが『集中講義! アメリカ現代思想』。「リベラル」という言葉の意味がいかに多様であるかがわかります。

 アメリカで地元のテレビを見ていると、オバマ、ロムニー双方の陣営が大量のテレビCMを流しています。

 その量の凄まじさ。莫大な費用がかかることが、どうして可能なのか。それを解き明かしているのが、『ドキュメント アメリカの金権政治』です。なんだ、金権政治は、日本もアメリカも大差ないではないか。そんな気になって、ちょっとほっとしてしまうのですが、いやいや、それではいけません。少なくともアメリカには、それを改革しようと努力する人々とメディアが存在します。

 そうそう、アメリカはいまも戦争をしていることも忘れてはなりません。ニューヨークにいるとなかなか見えてこないのですが、米国内を飛び回っていると、軍服姿の兵隊たちをよく見かけます。『勝てないアメリカ』は、イラク戦争やアフガニスタンでの戦闘に疲弊しているアメリカの姿が描かれています。

 アメリカを戦争に駆り立てるもの。そのひとつが、「軍産複合体」と呼ばれる巨大軍事産業と政府との癒着です。『ロッキード・マーティン 巨大軍需企業の内幕』は、アメリカが巨大な軍事国家であることを思い出させてくれます。

 それにしても最盛期のような勢いのないアメリカ。アメリカは没落するのか、復活を果たせるのか。『かつての超大国アメリカ』は、中国とアメリカの比較から書き始めます。中国・天津の巨大な施設が八か月で建設されたのに対して、首都ワシントンの地下鉄のエスカレーター修理に六か月かかる現実が描かれます。「アメリカの全盛期は去り、中国の全盛期に取って代わられたという意識」が全米に蔓延しているというのです。でも、「悲観的になってはいけない」と筆者たちは言います。そう、これは日本にも言えることなのだと思いますよ。

 最後に、アメリカ関係書籍以外のものを。『復興の書店』は、去年の大震災以降の地元の書店の苦闘ぶりを描いています。本は「生活必需品」だったという指摘は胸を打ちます。

今月買った10冊 

  1. 『ティーパーティ運動の研究――アメリカ保守主義の変容』 久保文明+東京財団「現代アメリカ」プロジェクト編著 NTT出版 2940円
  2. 『世界の99%を貧困にする経済』 ジョセフ・E・スティグリッツ 楡井浩一、峯村利哉・訳 徳間書店 1995円
  3. 『見えないアメリカ』 渡辺将人 講談社現代新書 777円
  4. 『99%対1% アメリカ格差ウォーズ』 町山智浩 講談社 1260円
  5. 『集中講義! アメリカ現代思想――リベラリズムの冒険』 仲正昌樹 NHKブックス 1218円
  6. 『ドキュメント アメリカの金権政治』 軽部謙介 岩波新書 777円
  7. 『勝てないアメリカ――「対テロ戦争」の日常』 大治朋子 岩波新書 861円
  8. 『ロッキード・マーティン 巨大軍需企業の内幕』 ウィリアム・D・ハートゥング 玉置悟・訳 草思社 2730円
  9. 『かつての超大国アメリカ』 トーマス・フリードマン、マイケル・マンデルバウム 伏見威蕃・訳 日本経済新聞出版社 2520円
  10. 『復興の書店』 稲泉連 小学館 1470円

この記事の掲載号

2012年12月号
2012年12月号
大特集 日本人と中国人 「宿命の対決」
2012年11月9日 発売 / 特別定価860円(税込)
関連ワード

池上 彰

読書の新着記事 一覧を見る RSS

登録はこちら

文藝春秋について 毎月10日発売 定価880円(税込)

※発売日・価格は変更の場合があります。