科学書の力 文藝春秋 掲載記事

生き物の戦略と地球環境の二つを
同時に学べる良書

『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』 (川上和人 著)

鎌田 浩毅 プロフィール

かまた ひろき/1955年東京生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科教授。東京大学理学部を卒業後、通産省(現・経済産業省)を経て97年より現職。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。『世界がわかる理系の名著』『座右の古典』『作家の名文方程式』など著書多数。

技術評論社 1974円(税込)

 いつの世にも恐竜はロマンをかき立てる生き物で、子どものみならず大人にも絶大な人気がある。その恐竜がどのように進化したか、なぜ絶滅したのかは、地球史上もっとも重要なテーマの一つである。ここ十年ほどの間に発見された化石によって、現代の鳥は恐竜から進化したことが次第に分かってきた。たとえば昨年幕張で開かれた恐竜展では、羽毛が生えていたとされる恐竜化石が展示された。

 本書は現生の鳥類を研究する生物学者が、恐竜と鳥類が近いことを拠り所として鳥の進化を解説し、かつて恐竜がどのように生活していたかを軽快に語った読み物である。

 そもそも、恐竜はなぜ人気があるのだろうか。それは、「化石からの推定では埋めることのできない現実とのギャップ」にあると著者は説く。すなわち、断片的な証拠しか残っていないので、「恐竜学には、誰もが解釈に参加したくなる深い懐がある」のだ。

 そこで、小笠原諸島の鳥類を研究する著者もこの推理に参加し、タイトルにあるように、「無謀にも恐竜を語る」ことになったと言う。確かに、軽妙洒脱な文体で「無謀にも」語っているのだが、評者の専門である地球科学から見ると、実はきわめて正統なアプローチをしているとも言える。

 地質学者は過去の現象を研究する際に、現在の地球で何が行われているかを参考にして、地層に残された記録をくわしく解読する。つまり、自然の法則は今も昔も変わらないのだから、過去に起きた事実は現在起きている自然現象で説明できるはずだ、という考えがその根底にある。

 斉一説(せいいつせつ)と呼ばれる考え方だが、ここから地質学は物理学や化学の成果を取り入れて、近代科学として確立していった。よって、現生の鳥を研究する著者が恐竜を語るのは、本当は無謀でも何でもなく科学的に正しい方法論なのである。

 こうして著者は鳥類と恐竜との類縁関係から鳥の進化を語り、鳥類学の成果から絶滅してしまった恐竜の生活を類推し、生態系の中での恐竜の役割を解説する。ここで、素人の読者にも興味深い内容を取捨選択し、身近で分かりやすい例を用いてグイグイ説明する力量は、並みのものではない。ちなみに、著者は「あとがき」で、鳥類学の裾野がなかなか広がらないので恐竜人気に便乗した、と告白しているが、なかなか見事な出来映えであると評者は高く評価したい。

 豊富な図版は恐竜と鳥の世界を理解するよい助けとなっており、巻末の参考文献では読みやすい図書も紹介する。生き物の戦略と地球環境の二つを同時に学べる点でも非常に優れた読み物である。

この記事の掲載号

2013年7月号
2013年7月号
大型特集 父への手紙、母への手紙
2013年6月10日 発売 / 定価840円(税込)
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川上 和人鎌田 浩毅

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