鼎談書評 文藝春秋 掲載記事

日系人がモノに込めた「我慢」の精神

『尊厳の芸術 強制収容所で紡がれた日本の心』 (デルフィン・ヒラスナ 著/国谷裕子 監訳)

NHK出版 2940円(税込)

 太平洋戦争が始まり、アメリカでも強制収容所が設けられました。西海岸に居住していた12万人の日系アメリカ人を収容するためです。『尊厳の芸術』は、収容所での生活を余儀なくされた日系人の手による日用品や絵画、彫刻まで様々な「モノ」を紹介した作品集です。アメリカ・スミソニアン博物館や東京藝大美術館などで展覧会も開かれました。

片山 アメリカの強制収容所と言えば、私の世代で印象に残っているのは、山崎豊子の『二つの祖国』です。NHKの大河ドラマにもなりました。しかし、写真で見ても「モノ」の力強さというか、小説やドラマとはまた違った迫力を感じますね。

山内 そうですね。たとえば49頁の収容所の景色を描いた絵。背景の山を見ると、日本橋のあたりから見た富士山、広重の作品ではと思ってしまいますね。これは日本の原風景とでもいうのかな。

 この作者チウラ・オバタさんは、カリフォルニア大学で美術を教えていたのですが、ユタ州の収容所に入れられ、クリスマス・カードとしてこの絵を描いたそうです。収容所の建物なのに、どこか日本風の家に見えてきますね。アメリカに渡って順応しようとずっと頑張って来た方々でも、収容所という極限状態に置かれたなかで作ったものには、紛れもなく日本があるんです。文化とか習慣とか風習とか精神風土みたいなものまで、全部「モノ」に表れているんですね。

片山 ユーモラスな作品もありますね。「家族ゲーム」とでもいうのか、木でできたブロックに「父」「母」「兄」などと書かれていて、さらには「良妻」「悪友」「女給」などと書かれている(笑)。廃木材でソロバンを作った人もいますね。

山内 私が思わず目を止めたのは、「千人針のベスト」。これを出征する自分の子ども、つまり日系2世や3世に着せたのでしょう。このベストには、いまでは書ける人も少ないと思われるような端正な字で「武運長久」と書いてあります。これを見ていると不思議な気持ちになりますね。

片山 帝国陸海軍の日本人兵士も、アメリカ軍に志願する日系人も、同じ「武運長久」を祈って戦場に送り出されたんですね。

山内 その通り。日系人の部隊は勇猛なことで知られていました。イタリア戦線で戦った442部隊などはその代表的存在です。

 アメリカに忠誠心を見せなきゃいけないから、人一倍頑張ったということでしょう。

【次ページ】『The Art of Gaman』

この記事の掲載号

2013年10月号
2013年10月号
日中韓百年戦争
2013年9月10日 発売 / 定価840円(税込)
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