鼎談書評 文藝春秋 掲載記事

天変地異への対応で為政者の値打ちが分かる

『気候で読み解く日本の歴史 異常気象との攻防1400年』 (田家康 著)

日本経済新聞出版社 1890円(税込)

――今号からの新連載「鼎談書評」は、古今東西の歴史に精通する山内昌之さん、『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞を受賞した気鋭の論客である片山杜秀さん、そして毎月ゲストをお招きして、それぞれ1冊を推薦していただきます。第1回のゲストは、硫黄島の栗林忠道中将の評伝『散るぞ悲しき』(大宅壮一ノンフィクション賞)などの昭和史を描いた作品で知られる梯久美子さんです。では、まず年長の山内さんからお願いします。

山内 今夏のあまりの暑さに影響されて……というわけではありませんが(笑)、『気候で読み解く日本の歴史』。これは、気候変動や自然環境の変化によって、日本の社会がいかに影響を受けてきたかを古代から昭和にいたるまで通史的に描いたものです。まずユニークなのは著者の経歴。農林中金を経て、現在は、農林漁業信用基金にお勤めだという。しかも気象予報士の資格も持っている。そのキャリアと関心を生かした独自の視点で、豊富なエピソードを興味深く紹介しています。

 紹介されているエピソードがとても面白いんですね。のっけから食べ物の話で恐縮ですが、どうしてマツタケが珍重されているかという話から古代の森林破壊に展開するのには驚かされました。もともと古代に珍重されていた茸は、日本古来の広葉樹林に生えていたヒラタケだったんですね。ところが、宮廷や巨大寺院などの木材として森林伐採が進み、奈良時代後期以降の畿内にははげ山が多くなり、そこにアカマツ林が繁るようになった結果、アカマツにだけ寄生するマツタケが増えたというんです。東大寺をはじめとする奈良や京都の古刹などが大規模な自然破壊を招いたとは。

片山 最新の知識に基づき、世界的かつ長いスパンで、語られているのが新鮮ですね。私はこの本で「1300年イベント」というものを初めて知りました。13世紀後半からの100年間、地球は著しい気温低下に見舞われ、ヨーロッパ北部では大規模な飢饉が起きたりしています。その天変地異の様子が日蓮の『立正安国論』にも記されているというあたり、著者の面目躍如といったところでしょう。

山内 『太平記』に出てくる、新田義貞の有名な鎌倉攻めも、この「1300年イベント」の影響が大きいというんです。寒冷化が進むと海水面が低下(海退)する。普段は通れない稲村ケ崎の海沿いを「俄かに潮干して」通れたのも、この海退のおかげではないかと推測しているのも興味深い。

 しかし、この本は単なる気候決定論ではないんですね。寒冷化や火山噴火、それに大地震などの天変地異は確かに人知を超えたものがある。だが、それにいかに対処してきたかが重要なんですね。著者は具体的には2つ指摘しています。1つは科学技術の発達。そしてより重要なのは為政者による有効な政策なのだと説いている。そこが最も重要な指摘なのです。

 著者の念頭には、東日本大震災への対応があったと思います。たしかに天変地異は発生後の対応によって、被害の深刻さが大きく違ってきますね。

【次ページ】巨視的な気象史と興味深い歴史エピソード

この記事の掲載号

2013年10月号
2013年10月号
日中韓百年戦争
2013年9月10日 発売 / 定価840円(税込)
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