著者は語る 文藝春秋 掲載記事

幼なじみのおじいさん二人が主人公

『政と源』 (三浦しをん 著)

佐久間 文子 プロフィール

さくま あやこ/1964年、大阪府生まれ。1986年、朝日新聞社に入社。文化部、「AERA」、「週刊朝日」などで主に文芸や出版についての記事を執筆。2009年から2011年まで書評欄の編集長を務める。2011年に退社し、フリーライターとなる。

 少女向け雑誌に連載された小説だが主人公は下町に生まれ育った幼なじみのおじいさん二人。あわせて百四十六歳だ。

「依頼をいただいたときは若い男女の素敵な恋愛なんて書けないからどうしようと思ったんですが、編集者から『おじいさん二人でどうですか?』って言われ、それなら書きたいことがあるなと」

 国政(くにまさ)は元銀行員。まじめがとりえだが、見合いで結婚した妻は理由も言わずに娘の家へと行ったきりだ。源二郎(げんじろう)は羽二重を細工するつまみ簪の職人で、頭に残ったわずかな髪を赤く染めている。性格も生き方も正反対、なのに生まれたときからの近所づきあいが続いている。

「モデルはとくにいません。こういう背景の人ならこういうことを言うんじゃないかな? と想像しながら書きました。書きながら、私、このまま行くと『政』みたいになる、って思ったり」

 まじめすぎて、そこはかとないおかしみが漂う国政は、行動は突飛でも腕は確かで弟子にも慕われる源二郎がうらやましい。妻に先立たれた源二郎もまたひとり暮らしで、二人は喧嘩しながら面倒を見たり見られたりしている。そういえば直木賞を受賞した『まほろ駅前多田便利軒』も男性二人が主人公だった。

「夫婦でも恋人でもなく、なんとなく一緒にいるようなゆるい間柄が書きやすいんです。もちろん家族がうまくいかないよりいったほうがいいですが、家族の有無が人の幸せを決めるわけじゃない。規格の決まった箱に自分を無理に押し込めるより、箱なんてなくて、その時々で支え合ったりできればそのほうがいいんじゃないか、なんて考えます」

 二人が暮らすのは墨田区のY町。隅田川と荒川にはさまれた三角州の町だ。

「東京の西側で育ったので土地勘はないんですが、戦争を知る最後の世代を主人公にするなら、古くから人が住み、いろんな記憶が積み重なった場所がいい。幼なじみが大人になっても仲良く暮らすなんて新興住宅地ではありえないですし」

 小説には、墨田区なら当然見えるはずのスカイツリーが出てこない。源二郎は小船を自在に操り、危急の折には国政の家にかけつける。あのあたり、ああいう細かい運河ってありましたっけ――?

「ないです(笑)。前に柳川(福岡県)に行ったとき船で堀を行き来したのがすごく楽しくて、東京にも残っているといいなと思いました。東京も、江戸時代は水路がたくさんあって水運が盛んだったと、何かで読んだりもしたので」

 国政も源二郎も、戦争が終わって無事を喜び合った少年の日の姿を互いのうちにとどめているから、素直な気持ちをさらけ出せる。こんな幼なじみが暮らす架空の町に足を伸ばしてみたくなる。

この記事の掲載号

2013年11月号
2013年11月号
大型企画 歴史の常識を疑え
2013年10月10日 発売 / 定価840円(税込)
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