鼎談書評 文藝春秋 掲載記事

自傷行為、うつ、肥満……。
“現代病”は人間だけではなかった

『人間と動物の病気を一緒にみる 医療を変える汎動物学の発想』 (バーバラ・N・ホロウィッツ、キャスリン・バウアーズ 著/土屋晶子 訳)

インターシフト 2300円+税

片山 本書の主張は明確です。人間は自分が思っている以上に、「動物」なのだということ。だから、動物との共通点に着目することで、人間の病気の新たな治療法が見つかるのではないか、ということです。

 著者のバーバラ・ホロウィッツはカリフォルニア大学ロサンゼルス校医療センターの心臓専門医。動物園の獣医に頼まれて立ち会った診療室で、彼女は大きな発見をします。エンペラータマリンという絶滅危惧種に指定されている小さな猿が「心筋症」に罹っていたのですが、これが実に人間のものと似ていたのです。人間と動物は同じ病気にかかるのではないか、と考えた彼女は、科学ジャーナリストのキャスリン・バウアーズと調査に乗り出します。すると、思いつく限り挙げた人間の病気は、ほとんどの場合、動物にも見られることがわかったというのです。

 ジャガーは乳がんに、動物園のサイは白血病にかかる。ニシローランドゴリラは大動脈破裂を起こし、コアラの間ではクラミジア感染症が猛威をふるっている(笑)。さらに、人間だけの高度な病気だと考えがちな心の病なども、動物に存在するという。タコや種ウマは自傷行為を行い、野生のチンパンジーはうつ状態になることがあり、時としてそれで死ぬというのです。

 2人は、獣医学、医学、進化医学を統合した新たな学問として、「汎動物学(ズービキティ)」という造語を生みだしました。

楠木 最初、このズービキティという考え方のどこが新しいのかよくわかりませんでした。というのは、これまでも薬の開発では、必ずラットや猿などを使って動物実験を行ってきた。人間と動物とで共通する病気があるのは当たり前だろう、と。

 しかし、汎動物学が動物実験と異なるのは、局所的に人間を動物で代用するのではなく、動物を丸ごと生命体としてみるところです。獣医学や動物実験の世界ではやってきたことでも、汎動物学という視点転換があれば新しい知見が拓ける。その典型的な例として面白く読みました。

片山 そうなんです。たとえば、自傷行為を例にとると、鳥の毛引き症、猫のクローゼット・リッカー(心因性脱毛症)、犬が強迫的に自分の身体を舐めたり、馬が脇腹を噛むこと、などが挙げられていますが、これらは猿でお馴染みの「毛繕い」のように、ストレスに直面したとき自分の体に触れることによって自らに安堵を与える行為がエスカレートした結果なんですね。

 本書によると、人間の自傷行為も全く同じ原理なのだそうです。自ら髪の毛をなでる、足の爪をはがす、ほおの内側をかむ、などの行為には自己鎮静効果があり、その意味では健康的なセルフケアなのです。ところが、ある境界を超えると、重大な自傷行為へと一気に進むということが分かってきた。

 自傷行為は高度な精神活動を営む現代人が陥った現代病と、心理学者や社会学者や精神科医が得々として説明するけれど、基本は動物と同じということなのです。人間を特別視することがバカバカしくなる本ですね。

【次ページ】人間は「超有機体」

この記事の掲載号

2014年4月号
2014年4月号
大特集 第二の敗戦 団塊こそ戦犯だ
2014年3月10日 発売 / 定価(本体800円+税)
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